投稿日: 2016年7月10日 1:25 | 更新:2016年11月2日12:12
カプセル内視鏡は、撮影した5万枚にも及ぶ写真を読影するため、大変な労力がかかると言われているが、今、その負荷を軽減させるための取り組みが各地で進められている。その中でも、名古屋大学を中心にした読影支援ネットワークシステムは最たるものである。
■採用してもらうために読影を一手に担うセンターを設置
名古屋大学で読影センターが稼働し始めたのは2007年10月。今では関連病院(55施設)のうち約30施設が参加するほどの大規模なネットワークを構築している。
治験に参加していたこともあり、カプセル内視鏡を2006年から導入していた。検査は低侵襲な方法で・・と考えていた後藤秀実教授(名古屋大学消化器内科学)は、カプセル内視鏡について「患者にやさしい検査ができる夢のある検査機器。小腸が診れるのも魅力だった」と振り返る。
後藤教授は、このカプセル内視鏡を名古屋大学だけではなく「関連病院にも採用してもらおう」と働きかけたが、そのとき「採用するには読影できるドクターが必要。医師を派遣してもらえないか」と言われたという。その当時、名古屋大学の関連病院は60施設。とてもそれぞれの施設に医師を派遣することはできない。ただでさえ医者不足と言われている時代、採用施設を増やしていくには読影の負荷を軽減しなければならない。そういった課題を解消するために考えたのが、読影業務を一手に担うセンターの設置だった。関連病院で施行したカプセル内視鏡のデータをセンターに送ってもらい、そこで読影、その結果を施行した病院に送り返すという仕組みである。「センターが稼働したときには約10施設が参加してくれた」という。
■センターは名古屋市内に3ヶ所早ければ1~2日で回答
後藤教授は「メーカーや医療施設の協力があったからできたこと」と言うが、これほどの規模で運用しているのは全国的にも見ても例を見ない。読影センターが設けられているのは、ブラザー記念病院(名古屋市瑞穂区)と総合上飯田第一病院(名古屋市北区)の2ヶ所。今年から大同病院(名古屋市南区)も加わって3ヶ所となる。読影件数はブラザー記念病院が約1,500件、2010年から稼働している上飯田病院は約500件に及ぶ。
カプセル内視鏡検査を行う関連病院と読影センター間のデータのやりとりは2つのパターンがある。ブラザー記念病院ではUSBメモリを宅急便で送付しているが、上飯田病院と大同病院は各関連病院との間にLANを構築している。原則、一週間以内に返送することになっているが、LANの場合は、だいたい1~2日で戻しているという。センターに送られてくる件数はその日によって異なるが、スタッフの努力もあり、ほぼ対応できているという。
■徹底したサポート体制
名古屋大学はその読影センターの設立・運営をしっかりサポートしている。必要になってくるのはワークステーションなどの設備と読影できるドクターや技師の育成である。ブラザー記念病院では担当ドクターが一手にこなしているが、総合上飯田第一病院と大同病院では読影業務のメインを技師に担ってもらおうと、名古屋大学からエキスパートのドクターを派遣して読影セミナーを開催している。今では上飯田病院で6名、大同病院では7人の技師が読影業務にあたっている。
そしてもうひとつ、このネットワーク構築にあたって欠かせないのは緊急時対応の体制づくりだと後藤教授は強調する。「当初、小腸カプセル内視鏡に保険が適用されたのが原因不明の消化管出血だったこともあり、すべての出血症例で、万が一出血が止まらなかったときには名古屋大学に運ぶよう、関連病院に伝えていました。大学側でもその時に備えて24時間体制でダブルバルーン内視鏡が施行できる体制をとっていました。それくらいの体制をつくっておかないと、もしのもときに責任をとれませんから。LANでつなげて連携する場合、物理的には遠く離れている病院からの依頼にも対応できますが、緊急時に対応できないのはよくない。そう考えて、今のところ、ネットワークに参加してもらうのは、救急対応ができる愛知県内を中心とした関連病院にとどめています」。ここまでのバックアップ体制を構築しているからこそ、関連病院も安心して参加できている。
■小腸だけではなく大腸にも対応
今、読影しているのは小腸カプセルがほとんどだが、後藤教授は大腸カプセルも視野に入れている。「今まで、大腸カプセルについて関連施設間でトライアルを行っていたが、メドがついてきました。今年は大腸カプセルについても読影していく予定です」と、将来を見据えて読影業務の幅を広げている。
こうした読影ネットワークは、名古屋だけではなく、京都・山口・千葉など、さまざまな地域で取りまれており、読影の労力を軽減し、読影の質を確保できるという点で機能しているシステムだといえる。「カプセルには関心があるが読影できるスタッフは持てない」という医療施設にとっては、採用するきっかけになるだろう。
大阪医科大学では、龍谷大学(理工学部)との共同研究で自走式のカプセル内視鏡の開発研究を行っている。既存のカプセルに「磁石付きの尾ヒレ」をつけるもので(写真参照)、どのメーカーのどんなカプセルにも装着できる点が特徴だという。実験を重ね、自在にコントロールできる段階までできあがっているそうだ。
能田先生(大阪医科大学)は「理想は、口から肛門までをひとつのカプセルで見ること。そのためには胃をしっかりと見れるようにならないと」と語る。胃は容積が大きいため、既存のカプセルでは「通過しているが、見えないところが多い」。自走式のメリットは「見たいところを見ることができる」ことなので、そこはこだわって動物実験も行い昨年の学会でも発表した。この他にも解決しなければならない課題は残っているが、モダリティとしての可能性を見出していくべく、今も研究活動に取り組んでいる。
「夢のカプセル」誕生が待ち遠しい。