座談会「カプセル内視鏡検査の読影における技師の役割について」 Vol.2 -2-

 
宝塚市立病院 消化器内視鏡センター 松本裕子さん
大腸肛門病センター高野病院     松平美貴子さん
 

(聞き手:医療新聞・ライター 岡部美由紀)


 

日本カプセル内視鏡学会(JACE)は、カプセル内視鏡が普及したときに発生する大量の読影をこなしていくためには、一次読影で病変を拾い上げてドクターを支援する読影技師の存在が欠かせないとして、読影技師支援制度を設けた。初年度で211名の支援技師が誕生している。今回は、ドクターを支援するという立場で読影業務に携わっているエキスパートの技師お二人にお話を伺った。

 
 
■カプセル内視鏡との出会いについて-
 
20151107_vol.2_p2_松本さん

松本:私はもともと臨床検査技師でしたが、今は内視鏡室に勤務しています。カプセルには2009年から携わっています。うちの病院はカプセルが発売されてもすぐには採用しませんでした。その理由のひとつが読影です。入れてしまったら読影ができるかどうか、治療だけでもドクターが足りなくて大変でしたから。それを解決するために担当のドクターが考えていたのが「読影を技師に任せられないか」ということでした。臨床検査技師が内視鏡室に入っていたので技師に読影を任せたいと。そして、技師ができるかどうか、技師に任せられる仕事なのかどうかを調べて、「大丈夫」と判断されてから購入しました。私が携わるようになったのはそれからです。
 
松平:私は、看護学校を卒業後高野病院に就職しました。病棟経験後外来に異動しましたが、当時の内視鏡は外来業務の一部で、内視鏡に特化したスタッフはおらず管理も不十分でした。そこで外部の勉強会やセミナーに参加し、勉強しているうち、消化器内視鏡技師という制度があることを知り、平成7年に資格を得ました。その後「内視鏡に従事したい」と主張し続け、研究や学会発表等の業績を積み、現在は内視鏡部門の責任者です。院長より内視鏡コーディネーターという役職も任命されました。カプセル内視鏡は、平成19に年副院長先生と共に勉強会に参加したのがきっかけです。カプセル内視鏡の必要性を実感し、副院長先生が病院側に猛烈にアピールされ、導入に至りました。

 
 
■読影のトレーニングはどうされましたか-
 

松本:カプセルを導入した大学が、読影できるスタッフを育てようとトレーニングのシステムを開発した、という話をドクターからお聞きして、その講習会に参加させていただきました。その大学でも「カプセルを導入したものの、読める人を育てないと運用できない」という懸念があったのかも知れません。基幹病院から2~3人ずつというお話でした。受講者は各病院で選出することになりますが、大学からは「職種は問わない。看護師でもいいし臨床検査技師でもいい。内視鏡に携わっていてもいなくても、医療職種であれば誰でも」と言われていました。そのときのメンバーの中には内視鏡に関わっていなかった放射線技師の方もいらっしゃいました。
 
松平:導入する前から副院長先生と勉強会やセミナー、ハンズオンに参加し、カプセル内視鏡についての知識を得て、読影の方法を学びました。ハンズオンが一番効果的でしたね。導入後は、最初から一次読影を担当しています。初めの頃は重大な病変の見落としが怖くて必ず3回見直していました。半日から数日間かけて読影したこともありました。今では随分短くなりました。何事も慣れれば時間も短縮できます。

 
 
■読影支援技師は女性が多いようですが―
 
20151108_vol.2_p2_松平さん

松平:内視鏡技師の資格取得者は、看護師が一番多く圧倒的に女性が多いです。内視鏡の現場に一番かかわっているのは看護師ということになります。私は看護師が読影するのは当たり前の流れだと思っています。ただ、読影というと診断につながりますから「看護師が診断にかかわるのはどうか」と言われ、それがネックになって進まない施設があるようです。理解が得られないのは悲しいことです。でも、内視鏡に従事する看護師はいつもドクターについて内視鏡画像を見ているので、読影もできるようになると思います。
 
松本:超音波を例にするとわかりやすいと思いますが、私が臨床検査技師になった頃、お腹のエコーは医者しか撮っていませんでしたが、今はほとんど技師が撮っていると思います。患者が子供でも技師が撮っている病院も知っています。熟練していけば技師でもできるようになっていきます。先生は「最終的な診断を下すのは自分だが、そこまでのデータを集めて、読影して所見をつけるところまでは技師に任せたい」というところをめざしているように思います。

 
 
■読影はどこまで関わっている?-
 

松本:読影に関わっている技師が4人いますが、ひとつの症例を1人目が見て、そのあと別な人がもう1回見るようにしています。2人目は1人目が見たときのデータが入っている状態で見ます。サムネイルを落としますが、そのときは所見も入れるようにしています。出血していたらすぐにダブルバルーンになります。今、当院で行っているカプセルの件数は年間で120~130件。その他、外から送られてくるものもあるので、それを合わせると250件くらいをやっていることになりますね。
 
松平:当院でのカプセル内視鏡の件数は月に5~6件です。緊急検査はほとんどありません。全て私が一次読影を行い、ドクターが二次読影を行っています。ドクターの参考になるように、サムネイルに画像を落として、簡単なコメントや所見を入れています。しかし、忙しいドクターが二次読影を全てこなすのは現実的に困難です。私はコメディカル2人で一次読影と二次読影を行うスタイルが理想だと考えています。二次読影を行うのは読影支援技師の資格を取得した習熟したコメディカル、そして最終診断をドクターが下すという方法です。コメディカル2人で読影していけば、その場で相談や指導ができ、レベルアップも図れますから。
 
松本:熟練した人が見ようと新しい人が見ようと、見落とされることってあると思います。見落としたことは今後繰り返さないように注意しないといけませんが、1人ではなく2人で見た方が間違いなく精度は上がります。確実なデータを出していくためにはその方がいいんじゃないか、と考えてこの体制で進めています。

 
 
■カプセル内視鏡の有用性について-
 

松本:小腸野領域にはないと困ると思います。かつて、小腸は“暗黒大陸”と呼ばれて「病気はない」と言われていました。でも、検査できるようになったから病気がどんどん出てくるようになりました。小腸がんもあるんですよ。カプセルがないときは、小腸に何か疑いがあるとダブルバルーン内視鏡で検査していたんですが、患者さんにとってもスタッフにとっても負担が大きいです。カプセルをやるようになって、このダブルバルーンの検査が減ってきました。今は、カプセルでダブルバルーンをやる必要があるかどうかを確かめることができています。
 
松平:慢性疼痛で非ステロイド性抗炎症薬を数年前から常用している患者さんが、消化管出血を来し、様々な検査を行ったものの原因不明でしたのでカプセル内視鏡を施行したらNSAIDs起因性の小腸炎でした。同じように、カプセル内視鏡でIBDや小腸がん、メッケル憩室、血管拡張、悪性リンパ腫などの診断がついた症例もありました。診断がついたことで今後の治療や患者指導につながります。小腸の検査は断然カプセル内視鏡が有用です。
 
松本:こういう患者さんがいました。その当時は学生でしたが、旅先ですごい腹痛に見舞われて救急車で運ばれたそうです。その後も腹痛を繰り返してうちの病院に来たんです。そのときドクターが「カプセルをやろう。それでわからなかったら仕方がない」となって検査をしたら小腸に潰瘍が見つかりました。ダブルバルーンで確かめたらクローン病だったので、そこで診断がついて治療に入れたわけです。それまでは本当に何もわからなくて、本人も「また、いつ、どこで起こるかわからない」という不安をずっと抱えながら過ごしていたと思うんです。でも、それが解決できたわけです。原因がわかって、治療ができるとその人の人生が変わりますからね。そのお手伝いができたので、私もうれしかったです。

 
 
■技師の役割、やりがいについて
 
20151108_vol2_p3_松本さんと松平さん

松平:通常、内視鏡診断はドクターの領域です。しかし、カプセル内視鏡においては、私たちコメディカルが堂々と読影にが関わり、医師をサポートすることができます。短時間ですが、患者さんとの関わりも深い検査です。通常の内視鏡検査の場合は、前処置担当や検査介助担当、治療介助担当と、担当業務での関わりになりがちですが、カプセ内視鏡は、予約・オリエンテーション・前処置の説明から検査準備・カプセルの嚥下・終了時の回収など一連を通して関わります。内視鏡検査の中でも私たちが担う業務の範囲が広い検査と言えますし、もしドクターが緊急で不在になっても「私に任せてください」と言える検査だと思います。
 
松本:カプセルの検査でドクターがやらなければいけないことは「カプセルをやりますよ」という状況や理由を説明することと検査後に診断をつけること、この2つです。検査自体は私たちでできます。こういうのは、内視鏡の検査の中でカプセルだけですよね。やりがいもあると思いますよ。あと、内視鏡の検査ってどんどん新しいものが出てくるんですよ。私が内視鏡を始めたときは上部とか大腸だけでしたが、ダブルバルーンが入ってきて、で、今カプセルでしょ。私は、ダブルバルーンの検査で立ち会っていたときはオーバーチューブ持ちでした。でも私は楽しかったです。検査の場にいると、新しい画像を見ることができますから。リアルタイムで経験できるのはいいです。ぜひ関心を持ってほしい。物おじせず、何事に対しても好奇心のある人は、とくに向いていると思います。
 
松平:カプセル内視鏡が世に出る前は「夢の内視鏡」と言われていました。でも、夢がまさに今実現してるんです。私自身、それに関われる喜びを感じています。若いコメディカルの方も新しいことに興味を持ち、どんどん関わってくれたらいいなと思います。スタッフから「読影って退屈でしょ。何が楽しんですか」って聞かれたことがあります。「内視鏡が好きだから。しかもカプセルはこれからの内視鏡だから」と答えました。内視鏡が好きな人は絶対に伸びます。内視鏡技師の資格を持っている看護師の皆さんにはもっと内視鏡を好きになって頑張ってほしいです。好奇心と向上心を持って取り組んでいけば読影もできるようになります。ただ、先ほどお話したように「看護師の業務ではない」と理解が得られない施設もあるようなので、今後は関連学会からもアプローチしていただければありがたいと思っています。

 
 
■読影は技師が活躍できる場-
 

松本:カプセルの読影に関する書籍をつくるとき、執筆される方々を一堂に会した会議の場で「ドクターの方々は読影を支援する技師はどれくらい必要だと思っていらっしゃるんでしょうか」と聞いたことがあります。そのとき、ある先生が強い口調でおっしゃったんです。「医者だけではとてもキャパシティが足りなくて対応できない。読影ができる技師を育てていくのは不可欠だ」と。職種や立場を問わず、関心があれば誰でもチャレンジできるような環境をつくっていってほしいですね。
 
松平:内視鏡で欠かせないのはチーム医療だと思っています。ドクターとの信頼関係を築くことが必須です。カプセル内視鏡についても同じことが言えます。セミナーや学会に行くと「ドクターとうまくいかなくて」という声を聞くことがありますが、それでは成り立ちません。その信頼関係を強くするためにも技師の読影力を高めていく必要があると感じています。現在開催されている読影セミナーはドクター対象なので、今後は技師を対象としたセミナーや勉強会もあればいいですね。
 
松本:私たちの病院では、私たち技師が一次読影をしてサムネイルを落としてその結果を戻す、という読影業務を受けています。最終的にはそれぞれのドクターに診断していただくことになりますが、その分、コストも安く提供できていると思います。
 
松平:地域ごとで読影支援技師が意見交換できるネットワークが構築できないかと考えています。読影をしていながら悩んだとき、なかなかドクターに相談できないので、そんなときに相談したりアドバイスが受けられるネットワーク。また、松本さんのところのような「読影認定技師による読影センター」が開設できればいいと思っています。最終判断を行うドクターを強力にサポートできれば活用してくださる施設も増えるでしょうから。

 


 

― 今や小腸領域には欠かせないカプセル内視鏡、その検査を支えているお2人の前向きな姿に心を打たれました。「大腸カプセルの適用も広がってほしい」というお話もあり、需要拡大に対応するためには、読影技師の育成が急務だとあらためて感じました。さらなるご活躍、期待しています。今日はありがとうございました。

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