投稿日: 2016年12月16日 11:11 | 更新:2016年12月16日11:11
国立研究開発法人
国立がん研究センター
中央病院
医学の進歩により、頻度の高いがんの治療成績は向上してきたが、一方で希ながんに対する対応は不十分なのが現状だ。国立がん研究センター中央病院では、そうしたがんへの適切な治療の実現を掲げ、希少がんセンターを開設している。
希少がんは、日本全体で年間に10万人あたり6人以下の発症数にとどまるがんを総称し(※)、種類は骨の肉腫、軟部肉腫、悪性脳腫瘍、皮膚のメラノーマ、眼腫瘍、小児がんなど幅広い。「これらのがんについて医師・医療機関が十分な経験を積み、治療成績を高めるためには、医療機関のネットワーク化や集約化が必要です」と同センターの川井章医師。実際に同院では、院内で診療科を横断したミーティングを行って、有効な対策を検討するだけでなく、国際シンポジウムや他医療機関との情報交換も積極的に実施している。中でも、比較的発症数が多い肉腫では、それぞれの患者に最も適した最新の集学的治療を実施し、研究を推進するため、肉腫の診療に関わる全診療科からなるサルコーマグループを組織している。また、他医療機関を含めたワーキンググループも開始する予定だ。「希少がんの治療成績の向上だけでなく、がん抑制遺伝子が肉腫から見つかったように、希少がん研究は他の多くのがん医療への貢献も期待できます」と川井医師は語る。
並行して力を入れているのが、希少がんの情報提供だ。そのために患者や医療従事者からの相談を受け付ける「希少がんホットライン」を設置し、相談や院内の診療科との橋渡しに携わっている。この取り組みは少しずつ全国に知られ、2016年10月現在、月350人以上の相談があるという。
※厚生労働省「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」による定義
希少がんのうち、小児がんの治療を担っているのが小児腫瘍科だ。小児がんは、子どもの全てのがんの総称であり、血液のがんから各臓器、四肢に発生するがん、脳腫瘍まで多くの種類がある。「中には希少がんでも特に症例数が少ないものがあります。それらを正しく診断することが治療の第一歩です」と強調する小川千登世医師。
小児がんの多くは抗がん剤が有効なものも多く、薬物療法が重要になる。それだけに疾患を見極め、適した薬剤を早期に使用することが治療成績に大きく関わるというのだ。こうした正確な診断を可能にするのも、同院が発症数の少ないがんを診断してきた歴史と実績を持つからだろう。
ただ、薬物療法の効果が高いとは言え、再発した症例や、抵抗性を持つ症例など、現状の薬剤が効きにくい症例もあるのが現状だ。それに備えた薬剤の開発もまた大きな役割だという。「大人には使えても小児がんには使えない薬剤がたくさんあります。それも含め、多くの薬を使えるよう、当院がリーダーシップを担うべきだと考えています」と、医師主導の治験を積極的に実施。現在でも肝芽腫の高リスク群の症例や、急性リンパ性白血病などで行っており、2017年には複数の治験も新たに開始する予定だ。
また、小児がんは、治療が長期に及ぶことがある。そのため、治療中の子どもの療養環境に配慮。遠方の患者の宿泊のサポートや、院内で高校生までが必履修科目を学べる「いるか分教室」を設置しており、子どもや親の負担を軽減している。
発症数の少ないがんへの治療だけでなく、発症数の多いがんに対して高度な治療を提供することもまた、同院の重要な役割だ。そのひとつとして、女性がもっとも発症しやすい乳がんの治療が挙げられる。治療を手掛ける乳腺外科では、手術を担当する木下貴之医師を中心に、放射線治療科や腫瘍内科のエキスパートが揃い、連携して最善の治療を目指している。「乳がんは薬物療法や放射線治療が進歩しており、手術も含め総合的にバランス良く治していく病気です。ただし、取り残したがんが再発すると治療が長期化・慢性化し、患者さんの生活の質も著しく低下します。まずは手術できちんと取り切ることが大切です」。そう語る木下医師も、胸壁に至った病変の切除や組織の再建を要する大がかりな手術まで行える医師だ
そして、その総合力は根治手術以外にも及ぶ。診断は、マンモグラフィ、超音波検査、病理診断それぞれを高い精度で行い、乳がんの早期発見を目指す。それによって発見できた早期がんを手術せずに治すことを目的に、刺した針を通じて病変をピンポイントで焼くラジオ波焼灼術の臨床試験も実施している。さらには全摘後の乳房再建にも力を入れ、経験豊富な形成外科によって、インプラントでの再建だけでなく、自家組織を移植する手法も行っている。これは、より自然な乳房の再建につながる術式であり、特に難易度の高い、腹部の組織を移植する腹部穿通枝皮弁法も提供する。「診断から治療、再建までのすべてを高い水準で備えるからこそ、自信を持って最適な治療を提案できます」と木下医師は語る。
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