緩和ケア―患者の希望聞き ともに目標を設定

　新型コロナウイルス感染症禍にもかかわらず、川口市立医療センター（埼玉県川口市）のダイナミックな動きは止まらない。がん治療では２つの大きなトピックがある。

　１つ目は緩和ケアの充実。その柱となる緩和ケア病棟を２０２３年度中に開設する予定だ。18床すべてが個室で、限りなく患者に寄り添った施設となる。病院事業管理者の大塚正彦医師に「緩和ケアのポイントは何か」と伺ったところ、即座に「苦痛の除去です」と返ってきた。

　緩和ケアと聞くと最期の看取りなどを想像する方が多いが、がんの診断から治療中の、どの時期の患者にも関わってくる。「苦痛が強く治療に前向きになれない時など、苦痛を除去することで治療に前向きになり、仕事をしながら治療することも可能となります」と力を込める。同院の緩和ケアでは医師、看護師、臨床心理士などチームで活動。さまざまな職種が協働し、身体的・精神的苦痛などの緩和に努めている。

　骨転移などで強い疼痛などがある場合は緩和ケア病棟に入院し、放射線治療を行いながら、鎮痛剤の調節をして苦痛を低減した上で退院し、その後、外来で化学療法を続けるといった利用法も考えられる。

　緩和ケアでは患者とのコミュニケーションを重視する。「患者さんの希望を聞き、ご家族とも話し合いながら、ともに目標設定していくことが大切。私たち医師は、病状などについて詳しく説明することがとても重要です。緩和ケアでは、それに加え、患者さんの話を十分に聞くことを特に大事にしています」（大塚医師）

放射線科―リニアックと CTを新機種に更新

　２つ目は放射線科の強化だ。放射線科ではリニアック（直線加速器）と、これに対応するＣＴを新機種に更新した。更新後のリニアックは時間あたりの放射線量が大きくなり、照射時間が短縮される上、画像による位置合わせにより、照射位置の設定がより精密になる。

「さらに強度変調による照射が患部周囲の複雑な形に対する照射を可能にし、正常な組織への影響が低減されます。その結果として副作用を含め、患者さんの負担の軽減が期待できます」

と放射線科副部長の中川惠子医師は話す。放射線科の放射線治療部は常勤医師が２名、放射線技師が５名と充実。２０２１年※は３３２人の治療を行った。放射線治療部門の主な業務として、がんの一次治療としての放射線化学療法のほか、外科手術の補助としての術前照射、骨転移などの苦痛を和らげる緩和照射などが挙げられる。

　放射線治療は被ばくという点で二の足を踏む患者も多い。「ただ、現在は技術が進歩し、正常な組織への照射を最小限に抑えることも可能になりました。それに伴い、副作用も、かなり軽減されています」と中川医師の言葉は熱い。「こうしたことを熱意を持って丁寧にご説明し、まずは１～２回受けてみませんかと、お話ししています。診察室へ入ってくるときは皆さん、硬い表情をされていますが、結果として、ほぼすべての患者さんに納得して治療を受けていただいています」

• 新しく導入されたリニアック

医療機関連携の「核」としてリーダーシップを発揮

　地域医療支援病院に承認された際、患者支援センターを設立し、救急紹介ホットラインも整備した。

「開業の先生方が診た患者さんが緊急を要するような場合、当院の救急紹介ホットラインに電話していただければ、ご指定の診療科に連絡します。その科が対応できない状況であっても、関連する科と調整を図り、当院で受けるような体制をとっています。新型コロナウイルス感染症患者の対応や、緊急手術が重なるなど受け入れできないこともありますが、その場合はお電話くださった先生に必ず理由を説明し、次につながるようにしています」（大塚医師）

　１９９４年５月に開院して以来30年近く、地域に愛されて歴史を刻んできた。今や南部医療圏屈指の総合病院へと発展。南部医療圏の住民に高度で質の高い医療を提供するとともに、医療機関連携の「核」としてリーダーシップを発揮している。

※2021年１～12月

取材・文／牧野晋一