投稿日: 2016年7月10日 1:05 | 更新:2016年11月2日12:12
2007年に小腸カプセルが、そして2014年には、適用範囲が制限されているものの大腸カプセルが保険適用され、関係者の関心が一気に広がっている。カプセル内視鏡をテーマとして2012年に設立された日本カプセル内視鏡学会(以下JACE)は会員数が1,637人(2014年10月21日現在)に達し、7月に開催された学術総会にも数多くの方が参加、立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。
■海外諸国でも例のない「カプセル内視鏡学会」
「カプセル」と名がつく学会があるのは世界各国を見渡しても日本だけという。JACEの寺野彰理事長は「カプセルは従来の内視鏡とはまったく異なる概念から登場してきたもの。特殊で先進的な医療機器でありながら、非侵襲的な検査で安易に使われる可能性がある。専門性の高い認定医や専門医の仕組みを確立しておかないといけない」と学会の設立にこだわった。
小腸カプセルは保険収載されるまでに4年、先進国ではもっとも遅かったが、大腸カプセルは最も早かった。かつては、カプセルが途中で詰まって排出されない「滞留」にも悩まされたが、今ではパテンシーカプセルという模擬カプセルの登場によりずいぶん解消されたという。
■機器も進化し、読影時間が大幅に短縮
カプセル内視鏡の直径はわずか11ミリ。先端に取り付けられたカメラで撮影した映像を受診者が身につけているレコーダーに蓄積していく。小腸検査では約5万枚の画像を読影することになるが、「これを支える機器も当初にくらべてずいぶん進化してきた」と採用しているドクターは口をそろえる。福岡大学筑紫病院の松井敏幸教授は「画質そのものが鮮明になってきましたし、内蔵されているバッテリーの寿命も長くなりました。小腸を検査するときにはダブルバルーン内視鏡を使うケースもあるんですが、ダブルバルーンで見れないところもカプセルなら観察できる、という箇所もあります」という。広島大学病院内視鏡診療科の岡志郎診療講師は「小腸検査の場合、撮影した5万枚の中には同じような画像が並ぶことが多いのですが、2014年に登場した第3世代は、類似した画像を一括して削除する機能がついて読影時間が大幅に短縮できました。従来は40分くらいかかってしたのが、半分の20分くらいで読影できます」と語る。また見落としが少なくなったとも。「上部空腸を通るときはカプセルがの動きが速く、撮影できていた枚数が少なかったんですが、新機種は動きが速くなると撮影するコマ数が自動的に増えるので、これまで“通過”していた箇所の画像を撮れるようになりました」と評価している。
■新機種の主な特長は次のとおり
・画像が鮮やかに
・バッテリーが長寿命に
・類似画像を自動的に削除
・撮影コマ数を自動調整
■読影技師の育成支援が課題
機器が進化し、読影する時間が短縮できたとはいえ、件数が増えるとそれをこなす人材を増やしていくことが欠かせない。JACEでは読影できる人をひとりでも多くするために、さまざまな取り組みを行っている。読影医、指導医の認定制度はもちろん、技師の育成にも力を入れている。寺野理事長は「超音波の分野ではもうすでに確立されていますが、読影を支援する技師の育成が欠かせないと思い、読影支援技師認定制度を設けました。2013年度からスタートさせたばかりですが、初年度は211名が認定されました」という。松井教授も「血液や腫瘍の発赤など目立つものについては自動的に判別してくれるようになりました。そのあと、技師が確認してくれれば最終的に診断を下す医師の負荷はかなり削減できます」と支援制度の必要性を強調する。
「e-learning」のソフトも開発、インターネット上で受講できる環境を整えたり、全国各地で読影セミナーも開催している。また、読影は自宅でもできるところにも着目、「育児などの理由で退職されたドクターや看護師の方々にも声をかけていきたい。読影はパソコンがあれば自宅で作業できますから」と語る。読影ができるドクターや技師が増えていけば、カプセル内視鏡の普及の大きな後押しになるはずだ。
■大腸カプセルの保険適用について
大腸カプセルは2014年に保険が適用されたが、「大腸内視鏡を実施したが、腹腔内の癒着等により回盲部まで到達できなかった場合」「器質的異常により大腸ファイバースコープが実施困難であると判断された場合」などに限定されている。ただ、この「大腸内視鏡が不完全」の理由については問われていないため、患者が痛みを訴えて途中で中止した場合も該当するという解釈もできるだろう、という見解を出してはいるものの、現実的には「その解釈は、全国各地の審査委員会に委ねている状況」という。
■課題とその解決に向けて
低侵襲で画質も鮮明になってきたカプセル内視鏡だが、「治療できない」「コントロールできない」という欠点もある。寺野理事長はそうした課題の解決についてこう語る。「治療ができるカプセルはまだ夢の話ですが、画像をより細かく解析し、がん特有の酵素や蛋白を判別してそこで薬を散布する、ということはできるようになるかも知れません。コントロールできないという問題もありますが、これは近い将来、解決されると期待しています」。
ただ、もっとも大きな課題は機器でではなく、むしろそれを診断する側だと強調する。「カプセルはスクリーニングのステージで普及すべきものだと思っていますが、読影できるスキルを持たない人が安易に使うようになっていくと誤診が出ます。これが一番の問題。教育セミナーに参加してもらって、資格を持っている人間がやる、という認識を持つべきだし、厚生労働省からもそうした要件を出してほしいくらいです。そうしないとカプセル内視鏡の評判が落ちてしまいかねませんから」。
世界唯一「カプセル」に特化した学会を持つ日本だけに、高い診断能を確立させて、課題の解決についても積極的に取り組み、世界をリードしていくことを期待してやまない。