NSAIDsやアスピリン服用患者の多くが小腸に粘膜傷害 ~胃や大腸には異常がなくとも、少量には潰瘍ができることが多い~ Vol.1 -3-

 
広島大学病院 内視鏡診療科
診療講師 岡 志郎
 
■小腸カプセル内視鏡の件数が3年連続で第1位
 
20151106_vol.1_p3_岡先生

 当院のカプセル内視鏡の検査件数は年々増えていて、小腸だけで今年は300件を超える勢いです。検査件数は全国で最も多く、ここ3年続けて1位です。カプセル内視鏡による検査画像を読影するには時間がかかりますので大変ですが、3~4名の小腸グループの医師が専属でこなしています。件数が多くなっている理由としては、市内にカプセル内視鏡による検査を行っている施設が少ないということもありますが、その他に、カプセル内視鏡の適応が原因不明の消化管出血(以下OGIB)で胃や大腸に異常がない患者がメインとなっている施設が多いのに対し、当院ではそれ以外の小腸病変を疑う患者さんにも広く検査を行っていることがあげられます。もちろん、クローン病を疑って検査することもあります。

 
 
■潜在性消化管出血への対応
 

 少し詳しく説明します。OGIBには2種類あります。ひとつは顕在性消化管出血(Obscure Overt GI Bleeding)で、再発または持続する下血や血便などの可視的出血で現在出血中のものと過去に既往があるもの。もうひとつは潜在性消化管出血(Obscure Occult GI Bleeding)で、鉄欠乏性貧血や便潜血陽性だったが大腸や上部の内視鏡検査では異常がなく小腸には潜在性出血が認められるといったケースです。なんとなく慢性的に貧血があり、小腸までは精査していないけど、貧血や便潜血が続いている、そういう患者さんが該当します。こういった症例はOvert OGIBと同じような頻度で小腸病変があるということがわかっており、私たちも論文として報告しています。
 当院では、このOccult OGIBをカプセル内視鏡の主なターゲットのひとつとしています。肝硬変などの肝疾患で貧血があるものの食道静脈瘤や大腸に出血源がない、という患者さんを肝臓内科から紹介されて、小腸病変を疑って精査することもあります。
 カプセル全体の件数の中では、Overt OGIBの患者さんが約7割を占めていますが、Occult OGIBが当院の検査件数を増やしている要因のひとつであることは間違いありません。これは、全国的にみても珍しいケースだと思います。

 
 
■求められる他診療科の意識改革
 

 非ステロイド系抗炎症薬(以下、NSAIDs)を長期的に服用していて小腸に粘膜傷害を起こしている患者さんがいます。低用量アスピリン(LDA)を服用している患者さんにも同じことがいえます。服用している方は全国に数百万人いると思いますが、その方々のうち、小腸に潰瘍がたくさんあるという患者さんは非常に多いです。
 例えばリウマチの患者さん。NSAIDsを服用している方が数多くいらっしゃいます。リウマチそのものが小腸病変を起こすこともありますが、NSAIDssの服用で潰瘍ができることも多いので、整形外科やリウマチ科の医師はそういうリスクを知っておくべきだと思っています。LDAも同様に粘膜傷害が発生することがわかっていますので循環器内科と脳神経内科にも同様のことがいえます。

 
 
■カプセル内視鏡で観察できる時代だからこそ‥
 
20151107_vol.1_p3_グラフ

 当院でのデータですが、LDAあるいはNSAIDs(LDAを除く)を3ヶ月以上内服していて胃や大腸に病変がなかった、という患者さんを対象にした研究結果があります。これによると、LDAを服用していた患者さんの77%、NSAIDsでは71%の患者さんに小腸病変がありました(図1)。このうち治療を要する高度な傷害を受けている患者さんは、LDAは3%、NSAIDsでは23%もいたのです(図2)。小腸に及ぼしている影響はこれだけ頻度が高いのですが、その重要性については広く知られていません。欧米では、プロトンポンプ阻害薬が小腸病変を悪化させるという研究結果も出ていますが、実際、胃や大腸はきれいなのに小腸には潰瘍・狭窄があり貧血が慢性化している症例は多いです。
 カプセル内視鏡により小腸の観察が容易にできるようになった今、消化器内科だけではなく、他科の医師にも小腸に対する関心を高めてもらい、少なくとも「LDAやNSAIDsが小腸粘膜に傷害を及ぼす可能性がある」という意識を持っていただきたいし、私たちもそのための啓発活動を行っていかなえればならないと考えています。

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