投稿日: 2016年7月10日 1:45 | 更新:2016年11月2日12:12
大腸カプセル内視鏡検査(以下大腸CE)におけるブースターとして、海外からリン酸水素ナトリウム製剤を用いることによる排泄率の向上が報告されております。しかしながら、本邦ではリン酸水素ナトリウムのリキッド製剤は未発売であり、錠剤においても65歳以上の高血圧症に対する投与は禁忌とされています。一方、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン(商品名ガストログラフィン)を含んだ前処置で98%という高い排出率が報告されています。そこで、ガストログラフィンを用いた大腸CE前処置法の有効性について検討してみました。
対象は、2014年6月から11月まで大腸カプセル内視鏡保険診療の適応基準を満たす28症例です。平均年齢は63.9歳、男女比は6:22、大腸カプセル施行理由は、便潜血陽性・血便が18例、内視鏡困難例15例、開腹歴19例(ただし重複あり)でした。
レジメンですが、前日の昼より低残渣食を開始し、モビレップ1Lと水0.5L、就寝前にラキソベロン10ml、当日はモビレップ1Lと水0.5L、ガスモチンとプリンペランシロップとともにカプセル内視鏡を服用してもらいました。そして、そのあと、ここがポイントですが、1時間後からブースターとしてマゴクロールP0.9Lとガストログラフィン50mlを1時間空けて2回服用してもらいました。
結果はCE排泄率96%(27/28)でした。排泄されなかった1例は体躯の大きな51歳男性で、後日行ったダブルバルーン大腸内視鏡検査で高度のS状結腸憩室症が確認されました。
当日の水分摂取量は3.5Lとなります。大腸通過時間は平均で196分で全消化管通過時間は302分、約5時間です。病変発見率は14/28で50%でした。また腸管洗浄もエクセレントが39%、グッドが54%と良好な結果が得られました。
大腸CEにおいては、ガストログラフィンを追加した前処置法で良好な腸管洗浄が可能となり、また100%に近い排出率を目指せるようになったと思います。
2013年12月に大腸内視鏡を導入し、これまでボランティアを含む15例に施行してきました。まだ症例を増やすには至っていませんが、その問題点のひとつに医療者側の人員不足が挙げられます。
そこで、カプセル嚥下後、小腸まで到達したことをが確認された時点で帰宅し、患者自身で検査を進めてもらう「持ち帰り検査」を試みました。施行したのはボランティアを含む7例(48~66歳・男性1例、女性6例)です。
プロトコールはできる限り単純化しようと、検査前日の食事は低残渣食、夜の8時以降、経口腸管洗浄剤(ニフレック(R))を1時間に1Lのペースで服用してもらいます。当日は9時に来院していただき、カプセルを嚥下、小腸到達確認後に帰宅してもらいます。帰宅後はすぐにブースター(ニフレック(R)1L)を30分以内で服用し、以降は積極的に歩行、飴やガムも摂取していただきます。その後は大建中湯、その1時間後にマグクロールP(R)を10分で服用。そのサイクルを2回、排出した段階で検査は終了となりますが、排出されない場合はブースターを追加して様子を見てもらいました。
結果は7例中5例が排出されました、未排出2例のうち1例はプロトコールどおりに進められなかったため、それを対象外とすると、6例中5例が排出されたことになり排出率は83.3%となります。これは従来の方法と比べても遜色がない結果でした。患者自身で検査を進めることで、医療者側の負担は軽減されました。検診中心の医療機関やクリニックなど様々な医療機関でも行える方法と考えられます。また、家事や仕事と同時に検査が進められる方法として、患者に受け入れられる可能性もあります。自宅で慣れているトイレを使えたこともリラックスできた要因だと聞きました。
排出されなかった1例はトイレ以外ほとんど動かなかったそうですが、排出された例の多くは仕事をしながら検査を進めていたことがわかりました。排出率を上げるためには運動などを取り入れたプロトコールの再検討が必要だと考えています。
大腸カプセル内視鏡(以下PC2)の前処置で、新たな低用量・ブースター法を考案しました。新しい処置法を考えた狙いのひとつは水分摂取量を極力減らして患者負担を軽減すること、そしてもうひとつは、当日早朝の下剤内服をなくして来院するmsでの便失禁を防ぐこと、検査前に胃内を空虚に保ってカプセルが胃内で浮いてしまうのを防ぐことも考慮しました。その内容と結果について報告します。
対象は2013年12月~2014年12月までに自主研究、または保険適用でPC2を内服した36例(32~79歳、男性16例・女性20例)。
当院における前処置・ブースター法は、検査2日前にセンノシド内服、検査前日には低残渣食(3食)、クエン酸マグネシウム(180ml)とビコスルファーストナトリウム水和液(1本)を内服、来院時の便洗浄度が9段階中7以上(残渣なし)の場合は当日の前処置を省略、6以下(固形物あり・粒あり)の場合は7以上になるまでモビプレップ+水分を繰り返し内服してもらいます。
ブースターは、小腸に到達したところで、モビプレップ1L+水分500ml、その後は腸管洗浄度が不適切な場合等、状況に応じて追加していきます。また、排泄を促すために歩行を促進しております。
結果、36例のうち47%にあたる17例が当日の前処置を省略することができました。総水分摂取量(平均)も2405mlまで抑えることができました。腸管洗浄度は36例中31例(86%)が適切と判断され、バッテリー時間内の排出率も同じ36例中31例(86%)でした。
検査の受容性ですが、34例中24例(71%)の方が「再度、またカプセル内視鏡検査を受けたい」と回答、97%の方が「羞恥心なし」と答えてくださいましたが、「検査時間が長時間」「腸管洗浄剤が多い」という回答が44%あり、さらなる改良が必要と考えられました。
当院独自の前処置・ブースター法を用いることで水分総摂取量を2.4Lまで減量でき、大腸洗浄度・排泄率ともに良好な成績が得られました。
大腸カプセル内視鏡検査における排泄時間は、早い群と遅い群とに分かれ、個人差が大きいことは知られていますが、影響を及ぼす因子は不明です。特に左側結腸通過時間に時間がかかるため、バッテリーの充足時間内に排泄されず、全大腸が観察できない例もあります。そこで、大腸通過時間を短縮する患者因子・処置について探索しました。
対象は、2013年11月から2014年8月まで当院で施行したCCEの連続43例。患者背景は、平均年齢57歳。男性21例、女性22例。前処置は治験時のレジメンに準じて統一して行い、大建中湯、こんにゃくブースター、排出遅延時にはワゴスチグミン筋注のレスキューを使用しました。総水分量の平均は4,013ml。洗浄は全員adequte。階段の昇降運動ありが33例、なしが10例などです。大腸通過時間の中央値は125分でした。
排泄率は100%でした。性別や年齢などの因子と大腸通過時間の関連では、男性が有意に短く、また若いほど短くなる可能性が示唆されましたが、それらの因子より寄与度が高かったのは階段の昇降運動です。患者さんのADLにもよりますが、トータルで20分ほど2階までの階段を往復していただきました。その「昇降運動あり」の群が、有意に通過時間が短かいという結果が出ました。
左側結腸通過時間において、運動群では長くても200~249分となっていて、外れ値(時間が長くかかる症例:250分以上)を回避できる可能性が示唆されています。
推測ではありますが、ひだで滞留していたカプセル内視鏡が、階段の昇降運動で腸管の蠕動運動を促進させ、また縦に振動を与えることでカプセルの位置が変わったり腸壁から離れるなど、よりカプセルが進行しやすくなる作用があるという可能性が考えられます。
大腸カプセル内視鏡検査(以下、CE-C)の前処置は従来の大腸内視鏡検査に比し簡便とは言えず、また検査時間も長くなることも普及を妨げる大きな要因と思われます。今回、我々の施設で試みた前処置法について報告します。
対象は2013年11月から2014年9月までにCE-Cを施行した20例(男性12例、女性8例、平均年齢は60.9歳)。10例ずつ2つのグループに分けて比較検討しました。前日は低残渣食2食と就寝前にマグコロール高張液250ml、これは同じです。当日は、A法が、ニフレック1.5Lかモビプレップ1L、その後ブースターとしてマゴクロール等張液1.8~2.7Lを追加。随時モニターを観察しながら、小腸内での排出不良が確認されたらその時点でプリンペラン10mlを静注しました。B法は、モビプレップ1L+マゴクロール900mlにプリンペラン10mlの静注を2回行いました。このプリンペランのタイミングがA法と異なります。カプセルが胃内にあるときに1回、小腸内に存在している段階でもう1回、この2回です。前もって施行したのは「大腸の通過を早く」と期待してのことです。そして、A法・B法ともに小腸内にカプセルがあることを確認した段階でガスモチン5ml4T内服してもらいました。
結果はA法が在院時間内の排出率50%、検査完遂率(直腸までの描出率)は70%でした。B法は院内排出率が70%、検査完遂率はA法と同じ70%でした。平均水分摂取量はA法が3.28Lだったのに対し、B法は2.04Lと有意に少なかったです。B法では10例中3例がブースターを一切追加せずに大腸観察できました。洗浄度はA法・B法ともカプセル遅延例を除いて良好な視野が確保できました。そして大腸到達時間はA法で165.1分だったのに対し、B法は120.3分と有意に短縮していました。
B法の方が、大腸到達時間・大腸通過時間ともに短い傾向にあり、水分量も1.2L減少させることができました。患者の受容性向上が期待されます。
大腸カプセル内視鏡(CCE)は、良好な洗浄度を実現することと、全大腸を観察するためバッテリー時間内に排出させることが欠かせません。そこで、腸管洗浄度、およびCCE排出時間に影響する因子を明らかにしようと、患者背景、胃通過時間、小腸通過時間、腸管洗浄度、バッテリー時間内CCE排泄率といった因子で検討してみました。対象は当科でCCEを施行した23例。検査は全例院内で施行、専属の看護師一名の協力のもと、腸管洗浄液を可能な範囲で速やかに内服するよう指示確認し、被験者にはできるだけ歩行を勧め、前処置の状態やリアルタイムビューアにてCCEの動きや位置を随時確認してもらいました。
結果は、平均の胃通過時間が42.7分、小腸通過時間は54.9分、大腸通過時間は93.4分で、時間内のカプセル排泄率は100%でした。また腸管洗浄度もエクセレントが7例、グッドが16例とadequate率も100%でした。この23例中、大腸通過時間が100分以上かかったのは8例ありました。この8例と100分かかっていない15例を性別や年齢、BMI、既往歴、胃通過時間などで比較検討してみましたが、統計的な有意差は見られませんでした。
ただ、前述のとおり、当科では専属の看護師により腸管洗浄液の内服量や進み具合をチェックし、とくにブースターに関しては可能な範囲で速やかに内服させるようにしています。便の状態も毎回確認しています。被験者に対しても階段を上ったりするなど、できるだけ歩行させて体を動かすように促しています。そして、こうした患者の状況を定期的に医師に報告するようにつとめています。
患者背景の因子などで大腸通過時間に影響を及ぼす有意な指標は得られませんでしたが、コメディカルの協力と被験者が体を動かすことにより、腸管洗浄度と排出率は極めて良好な結果が得られました。
平成26年2月から12月に施行した大腸カプセル内視鏡検査の成績と検査時間に影響する因子の検討を行いました。症例数は55例(男性30例、女性25例。平均年齢は66.3歳)。検査理由はトライアルが1例(保険適用外)、腹部手術既往(苦痛など)が15例、全大腸観察不能が39例でした。
検査を開始してカプセル嚥下したあと歩行してもらいました。この運動因子は、良・中・不良の3つに分けました。「良」はほとんど歩きっぱなし。「中」は歩いたり座ったり。「不良」はADLの関係でほとんど歩けなかった患者さんです。この運動因子の他、年齢・性別・体位変換の有無で比較してみました。
検査当日の排出率は100%。院内(8時間以内)排出率は96.4%(55例中53例)でした。発見病変は、大腸がんが1例、大腸ポリープが5例、大腸憩室症が21例でした。全検査時間は、最短が1時間56分で最長は14時間16分で平均は5時間31分でした。
胃の通過に1時間30分以上かかったのは、運動因子「良」の25例のうち2例(8%)だったのに対し、「中~不良」は30例中8例(26.7%)ありました。小腸通過時間、上行結腸通過時間などでも同様の傾向がみられ、全大腸通過に5時間以上かかった15例で見てみると、運動因子「良」は25例中2例(8%)だったのに対して「中~不良」のグループは30例中13例(43.3%)を占めていました。
全検査時間が6時間以上だったのは全部で25例ありましたが、その88%が運動因子「中・不良」でした。言い換えれば、運動因子「中~不良」30例の73%は検査時間が6時間以上かかっていたことになります。その中でも運動「不良」例の5例はすべて検査時間が8時間以上でした。
今回の検討結果ですが、胃・小腸・大腸すべての部位の通過時間に有意に影響を与えている因子は運動のみでした。また、横行結腸~下行結腸への通過時間には体位変換も影響を与えていました。
大阪医科大学第二内科の樋口和秀教授から、大腸カプセル内視鏡の使用経験に関するアンケート結果の報告があった。このアンケートは、日本カプセル内視鏡学会(JACE)の保険委員会がPC2の使用実態を明らかにするために実施したもので、回答者はJACE会員が所属する44施設。集計結果は全大腸観察率は78%、洗浄度は優+良が84%、検査当日の排出率は84%だった。樋口教授は「ほぼ保険適用範囲で施行されている。前処置やブースターに関してはまだ定まっていない。読影は医師の負担が少し大きい」との見解を示した。この集計結果は保険点数を見直しを要求する際に添付したそうで、今後の動向が注目されるところだ。
今回の学術総会では、患者を対象としたアンケート調査が多数紹介されていた。いずれも大腸カプセルに対する受容性が高い結果が出ており、患者の期待が大きいことが明らかになった。
そのひとつ、名古屋大学医学部附属病院で実施された調査(n=38)では、カプセルの飲み込みについて「問題ない」などの肯定的な回答が94.7%に達していた。下剤や検査時間については否定的な意見が多かったものの、恐怖はなかった(65.8%)、痛みはなかった(97.4%)、恥ずかしさはなかった(89.5%)と低侵襲さを裏付ける結果となっている。
そして「大腸カプセルと大腸カメラ、次回はどちらを選びますか」との問いで、カプセルと回答したのは78.9%だった。中でも注目すべきは「排出できなかった人」の割合である。今回排出できなかった17例のうち13例(76%)が「次回もカプセル」を希望していた。母数は少ないものの、大腸カプセルに対する期待値の高さ、言い換えれば、大腸内視鏡に対するハードルの高さがうかがえる結果といえる。