投稿日: 2016年7月10日 1:50 | 更新:2016年11月2日12:12
■消化器に関することはすべてできるように
松山赤十字病院は愛媛県内で最初に大腸カプセル内視鏡を導入した。胃腸センターの蔵原晃一所長はこう振り返る。「採用したのは2014年4月です。私たちは地域内の中核病院として、消化器に関する検査や治療は“ここにくればすべてできる”というプライドを持っています。カプセル内視鏡もその一環として採用しました」。
■読影は外部のセンターを活用
しかしながら、導入する以上、コストや読影など運用面についても考えておかなければならない。その点について蔵原所長は「当院では年間に大腸内視鏡検査をおよそ5,000件こなしています。小腸カプセルも年間100件程度行っていましたから、マンパワー的にこれ以上読影できる余裕がありませんでした。大腸カプセルに関する読影はメーカーが提供している読影サービスを利用しています」と語る。これまでに読影を依頼したのは約20件。戻ってくるのは1週間以内と多少時間はかかるが、精度は高いと舌を巻く。返却された中で「病変あり」と指摘された症例についてあらためて大腸内視鏡で検査するとポリープの数までほぼ間違いないそうだ。「外注費がかかり、儲けはほとんどない」ものの、読影の技量は高く十分評価できているという。(図1)
■地方ならでは・・の悩み
医師不足の問題は地方になればなるほど切実だが、「そんな状況だからこそ、大腸カプセルを使う価値がある」と蔵原所長は強調する。「地方では、都市部とは違って大腸内視鏡ができる医者は少ないのが実情です。僻地に行けばなおのこと。でも、カプセルの場合、診断を下すのはドクターですが検査自体は看護師に任せても問題ありません。読影についても先ほどお話した読影センターを活用すれば、件数もこなしていけます」。
■医療機関の棲み分けについて
大腸カプセル内視鏡を取り巻く課題で最も大きいのは保険適用範囲が狭いことだといわれているが、蔵原所長はその背景についてこう語っている。「医療機関の棲み分けを明確にすべきであると考えています。今、当院では病変があるかないかを確かめる検診的な業務から、病変がある患者を対象に精密検査をして治療するまで幅広く行っています。しかし、病変があるかどうか確かめるのはクリニックや検診センターに任せて、私たちは病変があるケースだけを診て治療することに専念する方が望ましいと思っています。便潜血陽性の人たち全員に大腸カメラをするとなるとキャパシティ的に無理があります。でも、カプセルがその間に入れば話は別です。便潜血陽性の場合、カプセルで再検査すれば病変があるとわかっている方々だけに治療を受けることができます。こうした棲み分けが確立できれば、大腸カメラを施行する人数も絞り込むことができます」。
■内視鏡医のプライド
「大腸カプセルを勧めている」と言うと内視鏡医のプライドを問われることもあるそうだが、その点についてはこう反論する。「大腸内視鏡だと恥ずかしい、痛そう、と恐怖心を抱く方はまだまだ多いです。便潜血陽性と判定された方々の中でも精密検査を受けない人は大勢いますから。でも大腸カプセルなら受けてもいい、というニーズはあります。カプセルは下剤が大変だろう、と指摘する方もいますが、今は大腸内視鏡とほぼ同じ量で施行できるようになりました。適用範囲が広がってくれることを願うばかりです」。せっかくのテクノロジーを使わないのはもったいないと言わんばかりだ。医師不足が叫ばれている今、効率的な検査や治療を行っていくための仕組みづくりが求められている。
今は、クオリティを重視してゆとりのある検査を施行
消化器内科部長 増田淳一
■今は、件数よりクォリティを重視
2014年6月に大腸カプセルを導入しました。ほぼ週1回のペースでこれまでに30件ほどこなしてきました。
大腸カプセルの検査手法はまだ完成形ではないと思っています。私たちも前処置やブースターは試行錯誤しながら行っている状況で、今は件数を稼ぐことよりも、見落としがないように、またきちんと排出できるように、そして患者さんもゆとりを持って受けられるよう、検査の質・クオリティを重視しています。
当院では1泊2日で検査を実施しています。病院に来ていただくのは前日のお昼。低残渣食を食べて、午後はオリエンテーション、腸のねじれをとるマッサージや運動をしながら過ごしてもらいます。独自に工夫している点といえば、リハビリの先生から「ペパーミントが腸管の蠕動運動を促進する」と聞いてアロマを取り入れたことでしょうか。受診者の8割以上が女性ということもあり、喜んでいただけているようです。
前泊の場合、当日の朝早くから前処置を始められるので8時半にはカプセルを飲むことができます。運動は欠かせないと思っていたので階段や屋外を歩いてもらうつもりでしたが、「トイレが近くにないと不安」とお聞きして、検査室の中にトレッドミル(ルームランナー)や踏み台昇降用の台を置き、室内で体を動かせるようにしました。院内でカプセルを排出できず自宅で排出した例も2~3ありましたが、排出率は100%です。院内で100%排出できる手法が確立できるようになれば外来にシフトしたいと考えています。
■丁寧な対応でトラブルのない検査を
大腸カプセル内視鏡を取り入れたのが長崎県内初ということもあり、マスコミにも何度か取り上げていただきました。その効果もあってか問い合わせも増えています。お問い合わせがあると検査案内のパンフレットとチェックシートをお送りし、検査の目的・症状・内視鏡の経験・腹部手術の経験を聴取、その内容を踏まえてこちらから回答票をお送りしています。手間はかかりますが、丁寧におこたえしていくことが大事だと思って対応しています。ただ、検査中は体を動かしてもらわなければなりませんし、高齢になれば腸の動きも鈍くトラブルも起きやすくなるため、今は75歳を上限としています。
■数字に表れないPR効果
当院は150床の急性期病院ですが、将来のことを考えると何かPRするカラーを出していく必要があると考えていました。そういう点も考慮して大腸カプセル内視鏡の導入に踏み切りましたが、導入後は上部と下部の内視鏡検査の件数が増えてきました。大腸の手術件数も増加しています。大腸カプセル内視鏡が呼び水となり、「大腸がんをよく診てくれる」というイメージが浸透しつつあるのかも知れません。
また、マスコミへの露出が多いと患者さんとの会話の中で話題になることも多く、職員のモチベーションも高くなります。検査件数や売上などの数字に表れない効果があると思っています。
■将来はスタンダードな検査に
私自身、大腸カプセル内視鏡が持つテクノロジーをとても評価していますし、将来性も高いと思っています。消化器以外でも、婦人科では子宮筋腫など癒着が起きやすい症例が多いため関心を持つドクターが増えているようです。
今は大腸がん検診の受診率が低迷していますが、近い将来、この大腸カプセル内視鏡がスクリーニングでも使われてスタンダードな検査方法になることを期待しています。私自身、こうした新しい検査にかかわれていることに喜びを感じていますし、長崎県内でも広がっていくよう普及啓発にも力を注いで大腸がんの撲滅に少しでも貢献できれば、と願っています。