【疾患センター解説】各診療部門が連携し、難治性がんの根治を目指す 膵がんセンター

【疾患センター解説】各診療部門が連携し、難治性がんの根治を目指す 膵がんセンター

膵臓をはじめ、胆道の疾患を検査、診断し、病態や体の状態に応じて治療法を選択し、施術します。膵臓がんは早期発見が難しく、予後が悪い疾患でした。しかし近年、目覚ましく進歩した化学療法と手術を組み合わせる集学的治療の成績が向上しています。
膵がんセンターとは
膵臓等の疾患を診断、治療する診療拠点
EUS-FNAを利用した針生検で確定診断
膵がんセンターは院内の各診療部門が連携して、膵臓等の疾患を診断、治療する診療拠点です。全国にある各センターは概ね同機能を有するものの、病院ごとに、呼び名はさまざまです。東京医科大学病院は「膵臓・胆道疾患センター」で診療します。
患者さんの多くは腹痛や背部痛などを訴え、来院されます。センターではまず、腫瘍マーカーを含む採血や造影剤を使用したCT検査、 MRI検査を行います。異常があれば超音波内視鏡(EUS)による精密検査やそれを応用した超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を利用した針生検で確定診断します。
膵臓がんは腫瘍の大きさと広がり、リンパ節や他臓器への転移を基準とする病期分類と、画像所見を中心に、根治切除が可能か否かを判断する切除可能性分類から、進行度を評価します。
検査後、担当医は検査結果や診断を患者さんに説明。がんの進行度や体の状態に合わせた治療方針を提案します。
患者さんへの最適な診療には、がんの病理診断をもとに、放射線治療、化学療法、血管内治療、緩和医療など、多岐にわたる分野の協力が必要不可欠です。
そのため、当院の膵臓・胆道疾患センターは、消化器内科、消化器外科、小児外科、放射線科、臨床腫瘍科、病理診断科が互いに手を組み、定期的にカンファレンスを開くなどして情報を共有、最適な医療を提供しています。

膵がんセンターについて

膵臓がんとは
かつての予後の悪さから一転、今では治療成績が向上
胃腸炎ではなく膵臓がんだったという事例も
膵臓がんは主に、膵管の上皮細胞から発生します。膵管とは膵臓が分泌する消化酵素・膵液の通り道で、膵臓の内部に網目状に張り巡らされています。この膵管で運ばれた膵液は、主膵管という一本の管に集まり、肝臓から伸びる胆管の出口の十二指腸乳頭部で胆汁と合流し、十二指腸へと流れて行きます。
同じく、膵管の上皮細胞から発生する腫瘍には、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍があります。
膵臓がんは早期の段階では、大半の方が無症状です。進行すると、腹痛、背部痛を引き起こし、体重が減少します。膵臓の右端、膵頭部にできたがんは胆管を塞ぐことがあります。これにより、胆汁の流れが滞って肝機能障害となり、黄疸が生じます。さらに進行すると、悪心嘔吐、腹水や、場合によっては吐下血などいくつもの症状が現れます。消化酵素を分泌する内分泌機能に障害が起こると、口渇、多飲、多尿などの糖尿病と同じ症状が出ます。
注意したいのは自己判断し、他の病気と思い込むことです。腹痛と下痢が重なり、胃腸炎だと思っていたら、実は膵臓がんだったという事例もあります。
膵臓がんの発生を高めるリスクは、生活習慣病である糖尿病や肥満のほか、慢性膵炎、飲酒、喫煙などがあります。また、IPMNは膵臓がんの発生母地となるので、定期的な検査が必要です。

膵がんの主なポイント

治療法について
手術療法と化学療法、放射線療法の三本柱
腫瘍切除が可能でも、術前に化学療法を行う場合も
膵臓がんが疑われる患者さんのうち、その7割は腫瘍が切除不可の段階まで進行しています。膵臓がんは進行が速く、仮に手術を受けても、術後の5年生存率は10〜30%と、予後が悪かったのです。
しかし、近年は手術技術が安定、化学療法の目覚ましい進歩で、治療成績が向上しています。
膵臓がんの治療方法は手術療法と化学療法、放射線療法が三本柱です。手術療法は病変を完全に切除するため、根治を目指すには必要不可欠です。そのため、近年は切除が可能か否かを目安に治療を進める「切除可能性分類」が提唱されています。
手術療法は化学療法の進歩により、従来切除不可とされた病変でも切除可能になりました。それが可能になったのは多剤併用療法の出現です。多剤併用療法は複数の抗がん剤を一緒に併用することで、治療の効果が期待できます。この療法の登場で、膵がんの治療全体が大きく変化しています。
切除可能性分類で切除可能となると、膵頭部なら膵頭十二指腸切除術など、がんの位置、範囲に合わせて除去します。一方、手術の前に切除可能よりも進行した切除可能境界の場合、化学療法または化学放射線療法を選びます。がんの縮小と根治切除率の向上が目指せます。
切除不能の場合で転移がない局所進行がんの場合も化学療法もしくは、化学放射線療法を選択します。症例数はわずかですが、この化学療法を施して、手術できる程度まで、がんが縮小するケースがありました。切除不能で転移がある場合には化学療法で予後改善を目指します。
従来の標準治療と違い、近年は術前の抗がん剤治療で予後が良くなることが分かってきました。がんが切除可能でも、術前に化学療法を行う取り組みが進んでいます。

膵がんの治療法の種類

※『病院の選び方2023 疾患センター&専門外来』(2023年3月発行)から転載
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