投稿日: 2024年3月4日 12:00 | 更新:2024年2月29日12:13
言葉が出ないほどに衝撃を受けた腹腔鏡下手術との出会い
胸部や腹部を大きく開くことなく、小さな複数の切開から通したカメラや機器で病変を切除する腹腔鏡下手術。傷が小さく、痛みが抑えられ、組織の癒着も防げるといった利点を持つことから、さまざまな手術で導入が進められている。日本における腹腔鏡下手術のパイオニアとして、数多くの手術を手がけてきたのが金平永二医師だ。
腹腔鏡下手術を知るきっかけとなったのは1991年の留学時だ。奨学金へ応募しようと考えていた時、目を留めたのがドイツ留学に関する奨学金だった。当時、ドイツで行われ、日本には導入されていない技術が何かを調べ、今も師と仰ぐ故ゲルハルト・ブエス医師による、直腸鏡手術の留学受け入れに応募したという。その留学先で、直腸鏡手術だけでなく、腹腔鏡下手術も数多く行っていたのだ。
「開腹手術とは異なり、手術室にいる全員が術野の様子をモニターで見られる。しかも、開腹手術との距離感とまったく違う、近接・拡大された映像が映し出される。そうした手術を最初に見た時、あまりにびっくりして言葉が出なかったのです。それほどにショックを受け、感動したのは人生でも数えるくらいでした」と、当時の衝撃を語る金平医師。もともとカメラが好きで、留学前は外科医にも関わらず、内科医が扱う内視鏡も頻繁に触っていた。そうした自身の好奇心を満たせるだけでなく、患者の負担の少なさにも感銘を受け、腹腔鏡下手術をライフワークにしたいと考えたのだ。
自身の手法の言語化が技術向上の原動力に
ゲルハルト・ブエス医師のもと、腹腔鏡下手術について学んでいった金平医師。その一環として、世界中の腹腔鏡下手術を手がける医師が集う、国際セミナーに参加したことが、人生に多大な影響を与えたという。ゲルハルト・ブエス医師を含めたすべての指導医は、一人ひとりの良い点と足りない点を見抜いて、的確に教えていただけでなく、手術の考え方や手法を言葉での説明に落とし込む、いわゆる言語化も高度に実現させていた。「教えるために言語化をしようとすると、自然と自身の技術を振り返らなければなりません。自分がどうやっているか、客観的に手術を見る。それにより自分もさらに進歩できるのです。教えることイコール、自分の技術を伸ばすことだと実感しました」。当時の腹腔鏡下手術は、まだまだ日本では普及しておらず、誰からも教わることができない。自身を客観視して技術を伸ばす考え方を学んだことが、帰国後の技術向上の原動力になったと振り返る。
帰国後、金平医師は今なお珍しい、フリーランスの医師として、全国の病院で手術を行うようになった。それは帰国当初に講師を務めた大学に、必ずしも患者を紹介してもらえるわけではなかったからだ。「結局開腹で手術が行われることもありました。それを聞いたとき、自分が行けば開腹せずに治療できたはずと考え、悔しくて泣きたくなったのです。そうした経験を踏まえ、ニーズがあればどこへでも行こうと考えるようになりました」
フリーランスの医師として各地を巡る日々を通じ、さらに言語化の力を磨くことができたという。大学病院内で同じチームで手術するのであれば、自然と言葉を交わさずとも適切な連携ができるが、初めて行くところでは困難だ。フリーでやるうちに、最も効率よく、理解される説明をする力が研ぎ澄まされていった。
恩師との約束で胃の温存手術にこだわる
金平医師が手がける手術は胃や胆のう、大腸など幅広い臓器を対象とするが、どの症例でも臓器の温存に力を入れてきたことが共通している。とりわけ重視するのが胃の温存手術だという。「始まりである、ゲルハルト・ブエス医師の直腸鏡手術がまさに臓器温存手術でした。帰国の際、彼にその手術を日本で普及させたいと伝えたら、『その技術を他に転換してくれるともっと嬉しい』と言われたのです。そこで、日本人で多い、胃の病気の手術に転換すると約束しました。その経緯があるだけにこだわりが強いですね」次第に、移動の時間さえ惜しいほどにニーズが増えると同時に、自身でチームを作り上げたいという考えも持ったことから、現職である、メディカルトピア草加病院の院長に就任。そこで、胃の粘膜下腫瘍の手術など、ますます臓器温存手術の向上に力を入れてきた。後進の育成も目標の一つだ。「どんなツールで教えても、言語化が大切なのは共通しています。それがまだまだ完成の域には達していません。自分の手技を分析して体系づけ、言語化して残していきたいですね」。そう語る金平医師の考える名医の条件は「技術を極める一方で、そこにゴールを作らないこと」と「あくまで技術は患者を幸福にする手段の一つに過ぎないと、思い続けること」。その考えを自らも実践し、医師として技術の向上を、院長として病院全体での高いホスピタリティの実現を追い求めている。
※『名医のいる病院2019』(2018年10月発行)から転載
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