投稿日: 2024年5月10日 12:00 | 更新:2024年8月19日11:46
乳がんについて
乳がんは女性に多いがんのひとつで、年間約9万5000人が罹患しています。乳がんにはいろいろなタイプがあり、治療は集学的治療といって、患者さんごとに複数の治療法を組み合わせて進められます。
疾患の特徴
女性ホルモンや生活習慣が発症に影響
乳がんは9人に1人の女性が罹患するとされる、女性が発症するがんの中でも特に患者数が多いがんです。国内では年間約9万5000人の新規患者さんがいます。乳房内の乳腺にできるがんで、症状としては乳房のしこりや皮膚表面のひきつれ、乳頭からの血液分泌などが挙げられます。35歳を過ぎると患者数が次第に多くなり、ピークに達するのは40~ 50才頃です。ただ、60代以上の患者も近年では増加傾向にあります。
進行して大きくならないと触診での発見が難しいため、早期発見には画像検査が役立てられています。乳がん検診で中心となっているのはマンモグラフィーですが、若年層に多い高濃度乳房(乳腺が発達している)の場合、画像が白く映って小さなしこりが見つけにくい場合もあります。そこで超音波検査を併用する医療機関もあります。
乳がんになる原因には、女性ホルモンの暴露、乳がんや卵巣がんの家族歴、遺伝性乳がんと呼ばれる特定の遺伝子変異、生活習慣(飲酒・喫煙、肥満・運動不足、食生活ほか)などが考えられます。中でも女性ホルモンの暴露とは、初潮年齢が低年齢化していることや閉経年齢や高年齢化していることを理由に、一生涯での生理の回数が多くなっていることから、女性ホルモンの影響を受けやすくなっていることも含まれます。ほかにも妊娠時には女性ホルモン分泌が少なくなるのですが、出産回数が少なくなったことでホルモンの影響を受ける期間が長くなっているとも考えられています。
乳がんの身体所見
(上野 貴之)
診断方法
乳がんの早期発見を目指す
乳がんは、乳腺組織からできるがんで主に乳管から発生します。現在、日本人女性の9人に1人が乳がんになると言われており、特に40代から60代の発症が多く、比較的若い女性に多いがんと言えるでしょう。しかし、腫瘍の大きさが2㎝以下、リンパ節転移を伴わない早期乳がん(臨床病期Ⅰ)は適切な治療を行えば、その後10年の生存率は95%以上でほとんどの患者さんが完治を目ざす事ができるので早期発見がとても重要です。
一方、乳がんの主な症状は、しこりの自覚、乳頭からの血液様分泌物、皮膚のくぼみなどです。これらの症状は、残念ながら病状が進行してから自覚する事も多く、早期発見には症状がないうちから、定期的な画像検診を受ける事がとても大切です。現在、乳がん検診は主に住民検診(対策型乳がん検診)と人間ドック・職域検診(任意型乳がん検診)があり、これらを有効に活用する事で早期発見につなげる事が可能です。
進歩する検査技術
乳がんの画像検査は、マンモグラフィ、超音波検査、MRI、乳房専用PETなどがあります。一般的に対策型検診ではマンモグラフィや超音波検査で行います。造影MRIは病院で診療に用いる事が多く、遺伝子異常が原因の家族性乳がんの方についてはMRIによる検診も推奨されています。またMRIでしか見えない早期がんに対してMRIを使って組織を採取するMRIガイド下生検も始まっています。
(戸井 雅和)
主な治療法
がんの進行度・性質から複数の治療を組み合わせる
乳がん治療の中心は手術で、化学療法や放射線治療など、複数の治療法を組み合わせた集学的治療を行います。手術では乳房全切除術と、腫瘍と周辺のみを切除して乳房のふくらみを残す乳房部分切除術が行われています。小さながんや、大きくても抗がん剤で術前にしこりを小さくした場合などに乳房部分切除術が可能です。
乳房を全切除したケースでは、乳房切除後の整容性(治療後の見た目)を保つことを目指して乳房再建術ができます。筋肉や脂肪といった自身の体の一部を用いた自家組織再建術、もしくはインプラントによる人工乳房再建術が実施されています。
再発リスクが懸念される場合や、乳房部分切除術を行った際には放射線治療が併用されます。また高齢である、合併症があるなどの理由で手術が難しい場合には、根治目的で放射線治療を行うこともあります。
2020年には、遺伝性の乳がんなのかどうかを血液で調べる遺伝子検査が保険適用となりました。乳がん全体の5~10%にあたり、20~30代前半で罹患する若年性乳がん、トリプルネイティブ乳がんやホルモン受容体陽性乳がん、両乳房に出現するがん、多発性がんなどが多いという特徴があります。ほかにも卵巣がんを併発する可能性が高いと考えられています。
特定の遺伝子変異による遺伝性乳がんの場合、乳房部分切除術が可能でも全切除を実施するケースがあります。また遺伝子検査から将来的に乳がんや卵巣がんになる可能性が高いとわかった場合、リスクを減らすために反対側の乳房や卵巣の切除を検討することもあります。ほかに本人だけでなく家族歴も適切な医療を受けるきっかけになり得ます。
全身療法では抗がん剤(化学療法)やホルモン剤のほか、分子標的薬という、がん細胞の増殖や転移などに関わる特定の分子の働きを抑制する薬剤が用いられます。近年では免疫細胞に働きかけ、がん細胞を攻撃しやすくさせる免疫チェックポイント阻害薬が登場し、注目されています。
(上野 貴之)
乳房再建術の選択
乳がん手術は、乳房温存手術と乳房全摘手術にわかれます。現在乳房全摘手術を選択された場合、主治医と相談で一部の病状を除いて乳房再建手術(乳房の膨らみを維持する手術)を選択する事が可能です。乳房再建手術は、背中やお腹など自分の組織を移植して乳房を作る自家組織再建と人工乳房(シリコンインプラント)による再建があります。どちらの手術にもメリットデメリットがあるため、再建手術を選択される場合は主治医・再建を行う形成外科医と相談し、ご自身のイメージや乳房のボリュームに適した再建方法を選択する事が重要です。
専門スタッフによるチーム医療
乳がん診療は、診断・薬物療法・再建手術・放射線治療・遺伝診療・緩和医療など多岐に渡っており専門スタッフによるチーム医療がとても重要です。医師だけでなく、専門の看護師・遺伝カウンセラー・ソーシャルワーカーなどが協力してサポートにあたる事で、心理的サポート、遺伝的リスクや生活・経済面などより広い治療サポートが可能となっております。
(戸井 雅和)
医療機関選びのポイント
POINT1 乳がん手術に関する担当医の体制
乳がんの手術を執刀している乳腺外科や薬物療法を行っている医師、乳房再建術を行っている形成外科の医師数を確かめてみましょう。また乳がんに関する豊富な知識と経験を有すると認定を受けた、日本乳癌学会認定の乳腺専門医が在籍しているかもチェックしましょう。
POINT2 包括的なチーム医療が行われていること
乳がんでは集学的治療が大切。乳房再建に関わる形成外科や放射線科医、緩和ケア、遺伝子カウンセリングなど、チーム医療が連携して実施されているか確認してみましょう。
POINT3 通いやすい立地であること
乳がんの診療は、ホルモン療法や定期的な検査など、術後長期にわたって行われます。そのため通いやすい立地にあることが医療機関選びのポイントになります。こうした集学的治療により、生存率は伸びています。
(上野 貴之)
※『名医のいる病院2024』(2023年12月発行)から転載
乳がんの名医について
名医リスト
乳がん治療で活躍し、「名医」として評判の高い医師について徹底独自調査を実施。その結果をもとに全国の乳がん治療の名医72人をリストにてまとめました。乳がんの可能性を指摘されその診断や今後の治療法について不安に思っている方、乳がんを患い現在の医師の治療法に疑問を感じている方、いざというときの備えとして確認しておきたい方などにご利用いただき「不安の解消」の一助にければ幸いです。
乳がん治療の医療機関について
乳腺・乳がん・ブレストセンター
身体のさまざまな部位に発症し、今や日本人の2人にひとりが罹患するがん。その一方で多様な治療法が生み出され、単独の治療科では対応が難しくなりました。がんセンターは横断的な集学的治療体制で、質の高いがん治療を行います。
治療実績ランキング
全国の医療機関4,424病院への独自のアンケート調査(1年間の手術・治療実績)に基づく乳がんの全国・地方別の治療実績ランキングです。名医リストと同様に病院選び・医師選びにご利用いただき「不安の解消」の一助にければ幸いです。
注目医療機関
乳がん検診・乳がん治療に注力している医療機関へのインタビューです。
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