【連載:在宅医療 北から南から】004 三宅敬二郎(香川)第2回

【連載:在宅医療 北から南から】004 三宅敬二郎 先生(香川)第2回

2025年問題が迫る中、高齢化が加速し、在宅医療が重要な時代となっています。本連載では、在宅医療の現状、課題、未来を伝えることをテーマに、実際の現場で活躍されている医療従事者の皆さまに、明るく、楽しく、わかりやすく語っていただき、在宅医療の認知浸透を図るとともに、在宅医療を検討したい患者様とそのご家族様に、在宅医療を知っていただくことを目的にしています。
4人目は香川で2007年から「在宅診療敬二郎クリニック」を運営されています三宅敬二郎先生です。
3回にわたるシリーズの2回目は現在編として、在宅医療に進まれたきっかけ、自院について、三宅先生の一日、さらに香川の特色についてお話いただきました。
終末期への医療に疑問を感じて
—在宅医療に進まれますが、そのきっかけは?
私が医師4年目でがん治療専門の病院に勤務していた時、たくさんの手術を行っていました。ただ、がん末期の患者さんが入院した場合には、治療方法がないので、上司を含め誰一人診ようとしない状況でした。その病院がカトリック系だったので、在籍するシスターが患者さんの話を聞く程度で、私はその状況に大きな疑問を感じて、終末期医療とか痛みとかに興味を持つようになり、ここが一つの転機となりました。
その後、当時ペインクリニックの総本山であった関東逓信病院(現在のNTT東日本関東病院)にて1年間研修し痛みについて学び、その後も外科医として手術をしながら学びを続け、40歳くらいで緩和医療や痛みについてわかりはじめ、最終的には大学に戻って、胸の手術(開胸術)をした後の痛みを取る研究をして博士号を取得しました。
42歳の頃、香川にある父親の病院に移りました。外科医として働いていましたが、私が47歳のときに脳卒中で胃瘻を作った患者さんが在宅医療を希望され、まだ介護保険もない時だったのですが、やれるのであればやってみようと思い、在宅医療をスタートしました。その後もがんの患者さんや人工呼吸器の患者さんから自宅で診てほしいなど、在宅のニーズは増えていました。外科医の仕事が半分くらいになり、父親の病院には兄も医師として勤務していたので、51歳になった2007年に一念発起して「在宅診療敬二郎クリニック」を開業しました。
3人で開業した時(左:妻、中央:事務員)
3人で開業した時(左:妻、中央:事務員)
—在宅医療に進まれて、実際にはいかがでしたか
2007年当時は在宅医療が認知されていなかったので、最初の半年間くらいは患者さんが少なかったですね。ただ、いろんなところで、在宅医療についてお話をさせていただき、医療機関や地域住民の方々と対話を重ねていくことで在宅医療の理解が高まり、次第に患者さんは増えていって、1年後には軌道に乗りました。
2年目以降も順調に患者さんは増えていったのですが、なかなか夜勤を対応してくれる医師や看護師を採用することができず、基本的には私が24時間365日診ていて、増員する直前の2015年頃は朝6時から夜10時くらいまで診察し、月900件ほど回っていました。
当初の7年間はかなり大変だったのですが、たまに参加する学会で他の先生とお話して自分がやっていることが間違っていないことを確認できて、そこを支えにやり抜くことができたと思っています。
在宅医療ならではの患者さんとのつながり
—「在宅診療敬二郎クリニック」について教えてください、スタッフ何名で診療にあたっていますか
開業から8年目以降は医師、看護師も増えていって、現在ではスタッフ27名です。医師は常勤5名、非常勤6名の計11名、看護師が6名、事務10名です。施設基準では在宅療養支援診療所(1)機能強化型(単独型)に属していて、高松市内ではうちのクリニックのみとなります。
院長交代記念祝賀会、スタッフにて(前列中央:私、前列右から2番目:西信俊宏院長)
院長交代記念祝賀会、スタッフにて(前列中央:私、前列右から2番目:西信俊宏院長)
—1日にどれくらいの患者さんを診ていますか
1日の医師一人あたりが訪問する患者さんの数は10〜13人くらいですね。診療区域は高松市全域で、大きな交通渋滞もなく、天候の影響も少ないので、効率良く回れています。
—ひと月の延べの患者さんの数はどれくらいでしょうか
ひと月あたり、400~450人くらいですね。老健施設等の患者さんは10%くらいで、自宅で診療する「居宅」の患者さんが多く占めているのが特徴です。
お看取りは年間200人くらいになります。
患者さんの願いを叶えるために釣りに行く
患者さんの願いを叶えるために釣りに行く
—患者さんとのとっておきのエピソードがあれば教えてください
たくさんありますよ。ただ、総じてうれしいこととしては、患者さんや家族から感謝の手紙をいただくことでしょうか。亡くなった患者さんの家族からのものが大半で病院医療をしていた頃にはなかったことです。感謝の言葉がたくさん書かれていて、スクラップブックで大切に保管しています。あとは、終末期の患者さんが今日はとっても調子が良いからといって、私のために木彫りの車を造ってプレゼントしてくれたり、今日着ているアロハシャツ(インタビュー時に着用)も患者さんからの誕生日プレゼントで、在宅医療ならでは患者さんとのつながりを感じます。
最も感動的なお看取り患者さん家族からの手紙(小学校3-4年生の女の子から)
最も感動的なお看取り患者さん家族からの手紙(小学校3-4年生の女の子から)
患者さんからのプレゼント
患者さんからのプレゼント
—勤務されている日の一日の流れを教えてください
クリニックには朝7時半くらいについて、そこから今日の準備をして、8時くらいから申し送り、カンファレンスを実施して、9時から訪問診療にむかいます。昼に戻ってくるかはケースバイケースになりますが、18時までに診療業務が終了するようシフトを組んできます。時間外は医師一人あたり月4~5回ほどオンコール対応をしていて、1回あたり2~3件のオンコール、うち実働は1~2件くらいです。
通常業務以外では、不定期に在宅医療に関する相談室を開いています。病院からの紹介にて開催することが多いのですが、実際に在宅に至っていない患者さんやその家族に在宅の実情を伝える取り組みで「CALM」という名称で行っています。
在宅相談室(CALM)のリーフレット
在宅相談室(CALM)のリーフレット
—土日はいかがお過ごしされていますか
これまではジョギングやバスケットボールなどスポーツを中心にしていたのですが、最近はちょっと文化的になって、映画を見たり、パンを焼いたり、ハンバーグを作ったりしています。ウクレレも弾き始めて、患者さんの誕生日に「Happy Birthday」を歌ったりしています。
訪問診療時、ウクレレで「Happy birthday」
訪問診療時、ウクレレで「Happy birthday」
瀬戸内海の魅力がいっぱい
—香川で必ず行ってほしい、見てほしいところを教えてください
香川には世界の80%くらいのシェアをもつ水槽のメーカーがあって、その水槽を使っている水族館がおすすめというか地元の自慢です。とくに「新屋島水族館」は源平合戦が行われた屋島山上にあって、山の上にある水族館でかなり珍しいので一見の価値ありです。
また、瀬戸内海に点在する島々もおすすめです。とくに私が訪問診療でも行っている「女木島」は古来より鬼が住んでいたと伝えられていることから別名「鬼ヶ島」と呼ばれていて、桃太郎に登場する「鬼ヶ島」のモデルになった島です。高松港からフェリーで20分で行けるので、ぜひ訪れてみてください。
女木島行きのフェリーにて往診に向かう
女木島行きのフェリーにて往診に向かう
—必ず食べてほしいもの、飲んでほしいものは?
もちろん、うどん。それとやはり、瀬戸内海でとれる魚ですね。太平洋の魚と違って小ぶりだけど美味しくて、とくに「マナガツオ」が美味しいですね。あとは「ベラ」、熱帯魚のような魚で関東では食べないような魚ですがおすすめです。
うどん
イメージ画像
—私だけが知っている「香川の穴場」
銭湯ですね。腰を痛めたこともあって治療を兼ねて、町の銭湯によく行くのですが、香川には昭和初期のような古き良き銭湯もたくさん残っていて、その中でも仏生山(ぶっしょうざん)にある「仏生山温泉 天平湯」がおすすめです。古さと近代を適度にミックスさせた温泉で、リーズナブルな価格なので、疲れを癒して、リラックスするには最適です。
—最終回の3回目は未来編として、三宅先生が目指す在宅医療について、ご自身が行っていることや国・行政にお願いしたいことを語っていただきます。
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