• 鹿児島県

社会医療法人 緑泉会

米盛病院

ロボティックアーム手術支援システム Mako の導入で
高精度の人工膝・股関節置換術を実現

高度な救急医療で地域を支える

 米盛病院は整形外科の単科病院として1969年に開院し、以降50年余り地域に根ざした医療を提供してきた。2013年には救急科を開設。救急医療の質の向上を目指し、診療科の拡充にも取り組んできた。現在は脳神経外科、循環器内科、心臓血管外科など18科を有し、脳疾患・心疾患などにおいても緊急の対応が可能となった。手術加療からリハビリまでシームレスかつ一貫した医療を提供することで地域医療の一翼を担い続けている。院内には血管造影装置やCTを備え初期治療から緊急手術まで一部屋で行えるハイブリッドER(救急室)があり、救急搬送受け入れから10分ほどで外科的処置が可能。また、離島などの遠隔地の患者を一分一秒でも早く受け入れられるように全国的にも数少ない民間医療用ヘリコプターとヘリポートを完備している。さらに、鹿児島県のドクターヘリを補完する役割も担う。

 「YES(YONEMORI EMERGENCY SERVICE):断らない救急」をコンセプトにどんな患者でも受け入れ、いかに早く高度な医療を提供できるかに重点をおいた医療体制を整えている。「救急相談ダイヤル#7099」を開設し、救急救命士が24時間365日対応しているのもその一環である。年間の相談件数は約9800件※にのぼり、一般市民や施設などから、急な体調不良の電話相談に応じており、救急車の適正利用促進にも寄与したい考えだ。

新しい技術を取り入れ高精度の人工関節置換術を実施

 整形外科においては、脊髄損傷、骨盤骨折、開放骨折を含めた多発外傷などの重症患者を受け入れている他、脊椎や関節変性疾患治療においても従来通り地域医療の量と質の面で高いニーズに応えている。長期の耐久性が期待される人工膝・股関節置換術では、これまで術中ナビゲーションシステム(同院では2009年から開始)やCT画像を用いた3D術前計画ソフト(同院では2014年から開始)を使用して正確なインプラント設置を心がけてきた。さらに2019年には、整形外科領域で同年に初めて保険適用となったロボティックアーム手術支援システムMako(メイコー)を導入し、2020年1月から臨床使用を開始している。7月末までに120件以上の人工関節置換術をMakoを用いて実施した。スタッフとともに改善を重ねて手術時間の短縮を果たし、1時間以内で終了する手術も出ている。

 Makoを用いた人工関節置換術では、手術支援システムが外科医の手術操作を安全かつ正確に制御し、コンピューターを用いて作成された術前計画や術中に得られた情報をもとに、骨切りや骨の掘削を誘導して、人工関節を設置することができる。筋肉などの軟部組織の緊張によるバランスや骨の脆弱性などに関する情報も参考に、手術計画の追加・修正が随時可能となり、人工関節置換術において、より病態にあった手術内容を追求できると水島正樹医師は説明する。

 手術における骨切りや軟部組織の緊張のコントロールなどの精度は、目視確認や手作業の慣れなど外科医の修練度合いに大きく左右される。Mako支援下では手術計画外の手術操作をシステムが制御するため、術部外への過度な損傷リスクを低減できる。またCT画像とマッチングさせれば、視野が届きにくい部位の解剖的特徴も画面上で把握でき、従来の手術のように視野確保のために術野を大きく展開する必要がなく、軟部組織に必要とされる緊張を可及的に保ったまま手術を終えることができる。「術者が理想とする手術計画が正確に反映されるようMakoがサポートしてくれます。従来の人工関節手術よりも低侵襲で高精度な骨切り、インプラント設置が再現性高く行われます。新しいテクノロジーには実臨床での検証が必要ですが、設置するインプラントは従来使われていたもので、中期から長期の検証が行われています。先行する海外の大学や病院では患者満足度や設置精度、手術侵襲などに関する好ましい報告も発信されるようになりました。安全で正確なだけでなく、患者様の術後満足度が上がることは我々にとっても楽しみなことです」(水島医師)

  • Makoシステムはロボティックアームのほか、ナビゲーションのための情報処理機、光学式カメラ、術者用モニターなどで構成される。術前のCT画像データから手術計画の3D画像を構築し、術中は術野および手術器具の位置関係がリアルタイムに表示される。

今後のロボット支援手術の普及・発展も見据える

 「Makoを使用することで手術手技をより多くのパラメーターで数値化、定量化して反映できるため、外科医師の修練度による手術成績のばらつきを減らすことが可能です。経験の少ない外科医師に対する教育においても、システムの力量が発揮される可能性があり、医師の技術と設備の双方の高度化によって手術がさらに洗練され、高い患者満足度や長期にわたる高いインプラント生存率が期待されます。ロボット支援手術は近年著しい発展を遂げ、泌尿器科や産婦人科領域で年々増加傾向にあります。患者背景が入念に分析された術前計画をロボティックアーム支援により、再現性高く実施できるという利点をいかし、長期の良好な臨床成績を目指しています」(水島医師)

  • 人工股関節置換術におけるMakoを用いた骨盤の寛骨臼掘削を行う様子。術者は術野とモニターを見ながら、手術計画を高精度に再現する。

充実した術後リハビリで患者をサポート

 手術環境の向上とともに、同院では回復期リハビリテーションにも力を入れてきた。約200人のリハビリスタッフがおり、術後の機能回復訓練にも独自の工夫が見られる。転倒リスクを評価し、到達すべきADL(日常生活動作)をステップ化することで患者と医療スタッフが不安なく訓練に臨め、安全で遅滞なくリハビリテーションが行える。200床の回復期病床を活用し、極端な入院短縮化を行わず、歩行、階段昇降レベルのADLを達成した後も、自宅での不安が少ない生活を目指して、他のADL訓練や可動域訓練を継続できることも特徴であろう。

 こうした取り組みにより、同院の患者数は増え続けている。これからも地域に必要とされる医療機関であり続けるために、さらなる発展を目指していくという。

整形外科

水島 正樹

みずしま・まさき●日本整形外科学会認定整形外科専門医 他

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