- 愛知県
社会医療法人杏嶺会
一宮西病院
膝の悩みの解決へ
低侵襲な手術と
手厚い保存療法を提供
体への負担が軽い半置換術に注力
「最新の設備と高度な医療技術の提供」などの方針を掲げ、地域の医療を支えている一宮西病院。2020年5月からは、膝関節のスペシャリストである巽一郎医師を迎え、整形外科のさらなる充実を目指している。
「お爺ちゃん、お婆ちゃんの笑顔を見るのが大好きなんです」と語る巽医師の主な患者は、変形性膝関節症などに悩む70~90代の高齢者だ。同疾患では、関節に痛みなどが生じ、歩行が困難になる場合もある。
そうした患者の笑顔を取り戻すため、巽医師は膝の痛みの原因を取り除くことを重視し、保存療法から手術療法まで幅広い治療に対応。力を入れている治療の一つが、傷んだ関節をインプラント(人工関節)に置き換える人工膝関節置換術だという。
「人工膝関節置換術では、関節全体を置き換える『全置換術』が一般的ですが、当院では、より低侵襲な『半置換術』を積極的に実施するようにしています」
半置換術では、膝関節の傷んだ面(内側か外側)のみをインプラントに置き換える。出血が少なく、十字靭帯を残せる利点がある。「自然な膝の動きが望めるため、乗馬やテニス、卓球、ゴルフなどに復帰する方もいらっしゃいます」
筋肉を切らない全置換術も開発
重症化などにより、半置換術の実施が難しい患者には、全置換術も検討する。しかしその場合でも、より低侵襲な手術アプローチを採用することで、体への負担を抑えるように努めている。
「筋肉を切らない全置換術として、大腿四頭筋温存型アプローチ(UVA)を開発しました。筋肉を切る方が、術野(手術部位の視野)を広く確保できるため、手術は容易ですが、UVAで筋膜を残せば、術後の腫れの軽減や、早期回復が期待できます」
加えて、治療の質向上に向けては、プログラミングの知識を活かし、手術のシミュレーションソフトも考案。CT画像から膝関節の3次元モデルを作成するもので、メーカーと共同開発した。インプラントの種類や設置角度などを事前にシミュレーションできるため、手術時間の短縮や設置精度の向上などが望めるという。
「設置角度の1度のずれが、術後のインプラントの使用感覚を大きく変える場合もあります。その意味で、シミュレーションソフトの活用は、患者さんのQOL(生活の質)向上にもつながると考えています」
保存療法も重視「手術は最後の手段」
手術を得意とする巽医師だが、「人工膝関節置換術は、治療としては最後の手段です」とも。実際の診療では、まず「3カ月は保存療法を試してみましょう」と提案しているという。もちろん、患者の希望や症状などを踏まえ、すぐに手術を行う場合もある。
「保存療法で症状が改善されず、最終的に手術を行うようなケースでも、3カ月のトレーニングにより、ある程度の筋肉がつけられるため、術後の早期回復が目指せます」
保存療法の柱は、膝に負担をかけている体重を減らす「減量」、膝を支えている太ももの筋肉を鍛える「大腿四頭筋の訓練」、膝に負担をかけない歩き方を学ぶ「歩き方の矯正」の3点だ。「これらの実践により、肥満などの変形性膝関節症の主要な原因を取り除くことが期待できるのです」
保存療法を基本として、手術にも注力し、変形性膝関節症や関節リウマチ、骨折など膝の悩みに幅広く応える巽医師。「合併症を抱える高齢患者さんのため、他科との連携にも力を入れています。また、分化の先の新たな統合として、各自の領域を活かし、膝・腰が連携した歩行解析・診断も計画しています」。巽医師の新たな活躍と、同院の発展から目が離せない。
取材/杉本富士孝
整形外科部長・人工関節センター長
巽 一郎
たつみ・いちろう●1992年、大阪市立大学医学部卒業。米国メイヨー・クリニック フェロー、英国オックスフォード大学留学、湘南鎌倉総合病院人工膝関節センター長などを経て、2020年より現職。
医療新聞社
編集部記者の目
これまで診てきた患者は約1万2000人、手術はのべ5000件。「手術の名手」でありながら、「保存療法の第一人者」としても知られる巽一郎医師が重視するのは、膝の痛みの「原因」を取り除くことだ。研究を重ねたオリジナルの保存療法は、これまで多くの患者の痛みをとり、歩行を可能にしてきた。「僕自身は手術が大好きなのですが……」と笑う巽医師。超高齢社会に突入した本邦において、求められているのは、こうした幅広い治療に精通した医師かもしれない。
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内科、外科、整形外科など
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