早期発見で根治が期待できる 大腸がん

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 消化管外科学分野 教授絹笠 祐介

大腸がんは国内で最も罹患者数が多いがんです。しかし早期発見ができれば、根治を目指すことができます。また最近では内視鏡や腹腔鏡を使った、低侵襲な治療も広く行われています。
疾患の特徴
早期発見・治療につながる内視鏡検査が発達
 大腸がんは国内で最も罹患数が多いがんです。40〜50代から増加し始め、高齢になるほど罹患率も高くなるのが特徴です。ただ近年は世界的な傾向として30代の若い患者さんも増加しており、原因解明が急務とされています。
 生活習慣の欧米化による高脂肪・低繊維食をはじめ、飲酒、喫煙、肥満などが発生要因と考えられています。また「リンチ症候群」や「家族性大腸腺腫症」のような遺伝性疾患から大腸がんに至るケースも一部にあり、家族歴(近親者の既往歴)にも注意が必要です。
 早期では自覚症状が少ない一方で、早期発見できれば根治しやすいのが大腸がんの特徴です。そこで厚生労働省では40歳以上の方に、年1回の大腸がん検診(問診・便潜血検査)を推奨しており、多くの自治体では一部の自己負担で検査を受けられます。血便や下血などの症状が出た場合、進行が疑われるので医療機関の受診が望まれます。
 確定診断では大腸内視鏡検査を行います。肛門から内視鏡を挿入して大腸全体を詳しく調べるこの検査は、早期発見にも役立つため、生存率の向上につながっています。
 内視鏡検査には「痛い」「苦しい」というイメージがあるかもしれませんが、鎮静剤や鎮痛剤などの併用で苦痛を軽減できるようになり、安心して気軽に受けられるようになってきました。
※国立がん研究センター運営がん情報サービス「最新がん統計」より

 
ここがポイント

主な治療法
腹腔鏡下手術が広まりロボット支援下手術も増加
 大腸がんは大別すると、肛門近くに生じる直腸がんと、盲腸からS状結腸までの部位に発症する結腸がんに分かれます。治療法の選択は、がんの種類や進行度(病期)、全身状態などを考慮して進めます。
 早期がんに有効なのが、がんを大腸の内側から内視鏡で切除する内視鏡治療です。開腹の必要がない内科的治療で、体への負担が少ないといえます。内視鏡検査の際にそのまま先端から処置具を出し、治療が可能な場合もあります。
 がんの大きさが2cm以下で軸のついた傘のような形状での場合はポリペクトミーを、2cm以下でひらべったい形状ならEMR(内視鏡的粘膜切除術)を行い切除します。2cmよりも大きいときは、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を実施します。
 進行すると外科手術が必要になります。手術には開腹手術と、内視鏡の一種である腹腔鏡と手術器具を数カ所の小切開から挿入して実施する腹腔鏡下手術があります。現在主流となっているのは、低侵襲な腹腔鏡下手術です。
 狭い骨盤内の周囲を重要な神経や臓器に囲まれた場所に発生する直腸がんは手術の難度が高く、改善策としてロボット支援下手術が近年注目を集めています。2018年に直腸がん手術で保険適用になり、導入医療機関が増えています。ロボットアーム先端の機器が精密な動きで手術を行います。腹腔鏡下手術と同じく小切開で済み、出血が抑えられるほか、臓器周辺の自律神経へのダメージ抑制が期待できます。22年から結腸がんでも保険適用になりました。
 直腸がんが肛門の近くに生じた場合、肛門括約筋の切除を一部にとどめたISR(括約筋間直腸切除術)を行う場合もあります。肛門機能が温存され、永久人工肛門が避けられます。ただ、術後の再発や排便障害などを引き起こす可能性もあるため、医師とよく相談することが必要です。
 抗がん剤と放射線を併用した化学放射線療法も進歩しています。術前にがんを縮小させてから切除することによる機能温存、術後の予後の改善が期待できるだけでなく、化学放射線療法だけで、がんが消滅する場合もあります。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
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