放置すると心筋梗塞につながる 狭心症

東京女子医科大学病院 心臓血管外科 教授 新浪 博士(にいなみ・ひろし)

高齢化社会の今、狭心症は心筋梗塞につながる危険もあり、看過できません。高血圧、糖尿病などリスク因子の多い方は特に注意が必要です。治療はカテーテルや手術を検討します。
疾患の特徴
血液が足りない!という心臓からの危険信号
 心臓はポンプのように拍動して、全身の臓器に血液を送る重要な器官です。同時に、自らの筋肉にも血液を送り届け、動力源にしています。心筋に血液を送る血管が、心臓の表面を走る冠動脈です。狭心症とは、この冠動脈が動脈硬化などで狭くなることで、血流が滞り、心筋の血のめぐりが悪化して起こる疾患です。狭心症は数種類に大別できます。
 労作性狭心症は運動や力仕事をして、心筋に十分な血液が送れないことで起こります。症状は胸痛や胸が締め付けられるような圧迫感です。また、左の肩から腕、首から顎への痛み、すなわち、病気の発症部位から離れた放散痛があります。安静にしていると3〜5分で軽快するのが特徴です。夜間や早朝、喫煙時、飲酒後に出現するのが安静狭心症です。これはけいれんした冠動脈が一時的に狭くなって起こります。症状は胸痛や胸部圧迫感、放散痛です。数分から10分程度持続します。
 最も警戒すべきは、不安定狭心症です。血管が詰まりかけの時に出現して、血栓が冠動脈を塞ぐ急性心筋梗塞に移行しやすい危険な状態だからです。疑わしいのは軽い運動をした時、従来にない強い胸部圧迫感があり、その頻度が増えた時です。また、軽い運動時の発作、安静時なのに胸部に圧迫感があり、症状が20分以上も続く時も懸念されます。

 
ここがポイント

主な治療法
血栓や動脈硬化組織を蒸散するエキシマレーザー治療
 狭心症を発症したら、なるべく早く治療を始めて下さい。開始が早いと、順調な経過が期待できます。治療は各自の症状に合わせて、薬物療法、カテーテル治療、手術などから選びます。安静により、数分で消失する労作性狭心症の場合はニトログリセリンの舌下が有用です。ニトログリセリンは全身の静脈や動脈の筋肉、平滑筋をゆるめて、血管を拡張させます。これを服用して症状を改善します。治療は冠動脈形成術、もしくは冠動脈バイパス手術を検討します。
 冠動脈が一時的に狭くなる安静狭心症は発作時にはニトログリセリン舌下が有用です。治療は禁煙や節酒を勧める生活指導です。また、ストレスが発作を誘因する場合があるため、生活習慣の改善に向けて指導します。
 不安定狭心症は即入院のうえ、薬物治療を始めます。必要に応じて、カテーテル検査から治療に移ります。まず、手首の血管から挿入したカテーテルを心臓や血管へと運び、造影剤を直接注入して血管を撮影します。こうして血管の狭窄度、心臓のポンプ力、心臓内の圧力などを測定します。
 次に検討する施術が「経皮的冠動脈形成術(PCI)」です。詰まりを起こした狭窄部にガイドワイヤーを通し、バルーンを膨らませ、冠動脈を拡張させます。その後ステントと呼ばれる金属の筒を留置して血流を確保します。検査のみなら、通常30分〜1時間程度、治療の場合は約1〜2時間程度です。このカテーテル治療は低侵襲で入院期間が短いのが利点です。外科手術と異なり、皮膚、骨、神経など、周辺の組織を損傷せずに治療部に到達できます。そのため、治療後の傷口の痛み、しびれ、運動障害などの合併症を極力減らせるのです。
 ほかにも、多くの狭窄箇所がある、重度の狭心症には「冠動脈バイパス術」も検討します。これは狭くなった冠動脈の先に新たに血管(バイパス)をつなぎ、狭窄部を迂回して血流を確保するものです。有用な循環器治療として挙げたいのが血栓や動脈硬化組織を蒸散するエキシマレーザー治療です。通常のバルーン治療が困難な複雑病変への効果が報告されています。

 
治療法の種類
早期発見・治療のために

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載
【関連情報】
関連記事
人気記事