投稿日: 2024年3月6日 12:00 | 更新:2024年3月6日10:55
2005年に国内で初めて手術支援ロボットによる心臓手術が行われ、徐々に適用疾患が増え、2018年には12の疾患が新たに保険収載されました。これからの外科治療の発展に大きく寄与するものと期待されています。
手術支援ロボットとは
手術における執刀医の動きをサポート。切開創も小さくて済み、患者負担の軽減にも期待できます
医師の手技をロボットがアシスト
ロボット手術は、正式には「ロボット支援下内視鏡手術」といい、手術支援ロボットを使って医師が手術を行う術式のことを指します。
現在医療現場で多く使われているのは、アメリカの企業が開発したダビンチ(daVinci®サージカルシステム)というロボットで、日本では2009年に医療機器としての認可を受けました。
ダビンチには4本のロボットアームが付いており、1本には内視鏡カメラ、残り3本は鉗子を装着します。これらを患者さんの体に挿入し、手術室内のコンソールと呼ばれる操縦席に座って、医師が3Dモニターで患部の立体画像を見ながら遠隔操作でロボットアームを操作して手術を行う仕組みです。
手術は、患者さんへの負担を減らす方法として、体を大きく切り開かずにすむ胸腔鏡手術や内視鏡手術が開発されましたが、これらは一定の経験と技術を必要とし、通常の開胸手術よりも難易度が高いという課題もありました。
ロボット手術のカメラとアームは、数㎝程度の小さな切開創から挿入できるため、患者さんの体への負担が少ない利点があります。また、ロボットアームはコンピューター制御で非常に精度が高く、細かい作業が可能です。カメラは視野を10倍以上に拡大した3D映像とで、良好な視野を確保できます。
手術支援ロボットが適応する疾患
手術支援ロボットシステムは、年々適用される疾患が増えています
保険収載に関しても徐々に増加する方向に
2009年に日本でダビンチが薬事承認されて以来、徐々にこれを活用した外科手術が増えてきました。それに伴って、ダビンチで保険収載される疾患も増加傾向にあります。2012年に前立腺がん、2016年は腎臓がん。 2018年には、食道がん、心臓弁形成術、肺がん、胃がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がん、膣式子宮摘出術など。そして2020年4月には、膵臓がん、仙骨固定術、腎盂尿管吻合術などが保険収載されました。
ダビンチは高額な手術機器ですので、多くは大学病院のような総合病院で導入されています。これらの施設では、ロボット手術に関する委員会やセンターを設置し、診療科の枠組みを越えて、使用法や安全性などについて、検討しているケースが多く見られます。
現時点では、手術支援ロボットのシェアはダビンチが大半を占めています。しかし、すでに各国のメーカーが新しいコンセプトのロボットの開発を進めています。
日本においても、国内で開発されたサージカルロボットシステムhinotoriが2020年8月に薬事承認されました。そして、これに引き続き、前立腺全摘除術、腎部分切除、膀胱全摘除術、腎盂形成術、仙骨膣固定術などの泌尿器科の手術も、2020年9月に保険収載されました。今後の適用術式拡大が期待されます。
治療法について
手術支援ロボットを用いた手術は、低侵襲で患者の体の負担が少なく、しかも整容性にも優れた術式です
甲状腺の手術は腋下からのアプローチ
ニューハート・ワタナベ国際病院では、心臓と甲状腺の手術を手術支援ロボットによって行っています。心臓については、僧帽弁形成術、三尖弁形成術に対して保険適用(限度額認定証の使用が可能)となっています。
従来の術式であれば、胸骨正中切開で対応するような心臓手術を、ロボット手術では1〜2㎝ほどの小さな切開創を3〜4個開けて、そこから鉗子と内視鏡を入れて手術を進めていきます。小切開心臓手術(MICS)よりもさらに体に優しい手術といわれています。
3D内視鏡カメラにより、術野を鮮明な3D映像として表示します。ズーム機能により患部を拡大して見ることも可能です。鉗子やカメラを動かすコントローラーには、手先の震えが伝わらないよう手ぶれ補正する機能があり、細い血管の縫合や神経の剥離などを正確に行うことができます。また早期リハビリが可能となり、早期退院・早期社会復帰が期待できます。
甲状腺の手術を手術支援ロボットによって行っている医療機関は、全国でも非常に珍しいケースです。甲状腺の手術は、従来は正面からのアプローチ、つまり首を切開して行われていました。甲状腺がんなど甲状腺の疾患は女性に多いため、整容性を考慮して、できるだけ小さな傷で済むように手術方法の開発が進められてきました。当院のロボット手術では、腋下の数㌢の切開創からアプローチしますので、術後は腕を下げれば、まず切開創が見えることはありません。