【連載:在宅医療 北から南から】003 飯田智哉(北海道)第2回

【連載:在宅医療 北から南から】003 飯田智哉 先生(北海道)第2回

2025年問題が迫る中、高齢化が加速し、在宅医療が重要な時代となっています。本連載では、在宅医療の現状、課題、未来を伝えることをテーマに、実際の現場で活躍されている医療従事者の皆さまに、明るく、楽しく、わかりやすく語っていただき、在宅医療の認知浸透を図るとともに、在宅医療を検討したい患者様とそのご家族様に、在宅医療を知っていただくことを目的にしています。
3人目は札幌で「札幌在宅クリニックそよ風」にて院長を務めている飯田智哉先生です。
3回にわたるシリーズの2回目は現在編として、在宅医療に進まれたきっかけ、自院について、飯田先生の一日、さらに北海道の特色についてお話いただきました。
弟と娘の一言に導かれて
—2020年から在宅医療に進まれていきますが、そのきっかけは?
海外へ留学する話が出ていて、基礎実験は面白かったので留学したい思いもあったのですが、自分のやりたいことが何なのかがわからなくなっていた時期で迷っていました。
当時、弟が小児科医として開業していて、1日に120人も130人も子どもを診ていて、彼は開業しているのに、僕は基礎実験って、論文を書きたい、業績を出したいっていう自己満足でしかないのかなと。誰のためになっているんだろうと思っていました。
あとは娘ですかね。小学生に入るくらいのころ、「パパは何のお医者さんなの?」って聞かれて、マウスで実験していたころなので、「なんのお医者さんだろうね」ってしか言えなくて。
で、自分は何の医者なんだろうというのがかなりあって、このまま留学してはダメなんじゃないかと思っていて、転職先を探しました。
エージェントを使って転職活動をしていました。いろんな提案をしてくれるのですが、その中で「在宅医療はどうですか」と。最初は「何それ、知らないから無理だよ」って話していたのですが、「先生に絶対合うと思いますし、1か所だけ見にいきましょう、どうせなら、在宅医療しかやっていないところを。」と言ってくれて。
若手医師が診察する姿に感銘を受ける
—在宅医療の現場を見て、ピンときたのですね
はい、見学したのが現職の「札幌在宅クリニックそよ風」で、まずは当時の理事長だった吉崎 秀夫先生とお話し、「なるほど、こういうものがあるんだ」と思いました。
あとは、当時4年目の医師がいて、実際に同行した現場での診察が非常に素晴らしくて、4年目でこんな素晴らしい診察ができるんだって感銘を受けて、「これはなんかもしかして面白い世界なんじゃないか」って思ったんですよね。
当時は大学病院とか市中急性期病院で仕事をしていたので、外来は患者さんと3分話をして終わりという診療でしたけど、彼らはその人の生活、 心の奥の部分までを包むように見ていて、本当の医療、本当に目指すべき自分がやりたい医療みたいなものがすごく透けて見えたんですよ。
きちんと患者さんと向き合って、思いを聴いて、 自分たちにできることは何なのかを探して、そしてそれを医者だけがやるんじゃなくて、看護師、ケアマネジャー、外部機関も含めてチームで目指していたというのが素晴らしいなとすごく感じてですね。
これなら、僕も医者の心を取り戻せるんじゃないか、本当にここでならもう1回ちゃんとした医者をやれるんじゃないかって思ったんですよね。
だからここを選んだんですね、きっと。
札幌在宅クリニックそよ風
札幌在宅クリニックそよ風、2024年4月に移転。
在宅医療でできることをしっかりと
—在宅医療に進まれて、実際にはいかがでしたか
すごく難しかったです。これまで消化器内科医として、広く診てきた気持ちはあったんですが、自分の専門性みたいなものが非常に限られていて、知らない病気や病態がたくさんあって、自分がやっていた領域は本当にごくごく一部で「自分にはわからないことがたくさんあるんだな」というのを非常に痛感しましたね。
あとはやはり病院ではすぐにCT撮影をして診断すればいいということが、在宅ではできないので、そんな環境で診察となると、自分には人を診る目がないということにも驚きました。機械とかがなければ、こんなにも自分は診れないんだなっていうことを最初すごく思いました。
—その課題をどのように解決されていったのでしょうか
当時結構ネガティブに捉えていた部分があったんですけど、でも例えば、在宅医療で精密なCTが必要な場面って、じゃあいくつほどあるんだろう。
もちろんあればいいかもしれませんが、なくても患者さんの状態から、あとはご家族のお話と普段関わっているヘルパーさんや訪問看護師の話などいろんな情報を集めることで、ある程度のことを把握することは十分にできるんだなってことがわかるようになりましたね。
小さいポータブルエコーを持って、在宅医療でもできることはやるということ、採血もできますしいろんなものを使ってやれる部分をやって、家でできることをしっかりやろう。
これはこれでいいんだなというように思えたし、100パーセント診断をつけることが僕らの仕事じゃないなとも思えるようにもなりました。
年間140人をお看取りしています
—「札幌在宅クリニックそよ風」について教えてください、スタッフ何名で診療にあたっていますか
現在はトータルで48名です。クリニックには医師が常勤11名、非常勤1名の計12名、あとは看護師や事務員。訪問看護ステーションには看護師12名、訪問リハビリには理学療法士・作業療法士が計3名ですね。
—1日にどれくらいの患者さんを診ていますか
クリニックは札幌の清田区といって東の端にあるので、札幌の東半分くらいと北広島市の一部の患者さんを診ていて、医師1人あたり1日に6〜7人の患者さんを診ていますね。
ちょっと少な目ですが、北海道の土地柄の影響があって、北海道は広くて、また冬は雪が積もって道が狭くなるので、普段なら10分や15分で着くところが30分かかることはよくあるので、夏にぎゅうぎゅうに詰めると冬が大変なことになってしまいます。
あとは、なるべく丁寧に診てもらいたいということもあります。
—ひと月の延べの患者さんの数はどれくらいでしょうか
750人くらいの患者さんを診ています。在宅の方々(居宅)が450人、施設の方々が300人ですね。居宅の方々への訪問は月1回もしくは月2回で半々くらいでしょうか。
お看取りは年間140人くらいをしています。2年前のデータでは北海道ではうちのクリニックが一番多かったですね。
患者さん宅にて
患者さん宅にて
—患者さんとのとっておきのエピソードがあれば教えてください
シャンソン歌手の患者さんがいらっしゃって、胆管がんで脳転移もあって、入院治療されていたのですが、最期に一曲歌いたいって退院されてきたんですよ。
小さな会場でしたがコンサートを開くということで、僕と事務員と看護師とで見に行きました。脳転移があったので右手が麻痺していて三角巾で吊って、左手でマイクを持って歌ってましたけど、非常にいい声で歌ってましたね。
1曲目を歌い始める前に僕の紹介をしてくれて、亡くなったときも僕が往診に行っていて、テレビから若かったころに歌っていた時のライブのビデオが流れていて、奥さんから「家で看取れて良かった」と言ってくれましたね。
その後もお偲びの会にも呼んでいただき、自分の中でいい出会いでした。
多くの方々ともに在宅医療の普及を目指す
—勤務されている日の一日の流れを教えてください
朝は8時くらいにクリニックに着いて、コーヒーを飲みながら、今日はこの先生にこれをお願いしようとか医師12名にどう動いてもらうかを決めています。
あとはゴミ拾い、週1回か2回するようにしています。
8時半から全体でのカンファレンスが10分くらい、それから医師のカンファレンスを10分、そこで昨日診た患者さんのこととか、困っていることなどを相談しています。
そして、9時過ぎに訪問に向かいます。
医師カンファレンスの様子
医師カンファレンスの様子
僕の場合は、他の医師よりも診ている患者さんが少ないので、訪問以外では、いろんな人に会っています。外部事業所の人たち、札幌市医師会の人たち、札幌市在宅医療協議会という在宅医療をメインに行っている医師の集まりで事業部の副部長をやっているのでその関連の人たちなどですね。
また、大学時代から教授に「臨床、研究、教育」と口酸っぱく言われていたので、研究や論文を書くなど、それなりにやっていますし、毎年、うちのクリニックは新しい先生が1人、2人入ってくるので、若い先生の育成ということにも注力しています。
あとは「在宅医療の普及啓発」。これは僕にはとっても大事なテーマなので、SNSでの発信やホームページを定期的に更新しています。医師会を絡めての市民公開講座や講演なども多くなってきていますし、ラジオにも出させてもらったりしています。
—土日はいかがお過ごしされていますか
子供が二人いるのですが、上の娘は小学6年生で友達と出かけたりしますし、下の息子はまだ低学年ですが、家にいてもyoutubeを見てるとか、子供たちが自分で何かやっている時間も結構ありますから、パソコンに向かって仕事していることが多いですね。
でも、何かあったら外に出たりとか、それなりに父親業はしていますよ(笑)。
魅力がいっぱいの「北海道」
—北海道で必ず行ってほしい、見てほしいところを教えてください
まずは「室蘭の夜景」。これは綺麗なので、ぜひ見に行ってほしいです。工場群の夜景、パーッと光が出るところがすごい綺麗ですね。でも、僕は小樽人なので、小樽運河も見てほしいですね。最近ですと、やっぱり「北海道ボールパーク」です。北広島市にできた北海道日本ハムの新しい球場。めちゃくちゃいいです。もう食べるものもたくさんあるし、遊べるものもあるし、 野球がない日でも楽しいですから、もうぜひ。
エスコンフィールド
北海道ボールパーク内のエスコンフィールド
—必ず食べてほしいもの、飲んでほしいものは?
小樽はやっぱり「かま栄」のかまぼこですね。私の中では一番です。あとは「初代」というラーメン屋さん。それと「五香飯店」という中華料理屋さん、ここの餃子はめちゃくちゃ美味しくて、もう小学校のときからずっと行っています。飲んで欲しいものは、北海道といえばガラナとリボンナポリンですね。
—私だけが知っている「北海道の穴場」
「丘珠空港(札幌市東区)」。玉ねぎの産地でその玉ねぎを使っている「丘珠ラーメン」と「丘珠カレー」がめちゃくちゃ美味しいです。僕はそれを食べるためだけにたまに行っていますよ。
「六花亭ラウンジ極楽」も穴場ですかね。帯広と札幌にありますが、ポイントカードを持っている人しか入れないのですが、メルカリでポイントカードを購入して入る人もいるくらい人気の場所ですね。
札幌大通公園
(イメージ画像)
—最終回の3回目は未来編として、最終回の3回目は未来編として、飯田先生が目指す在宅医療について、ご自身が行っていることや国・行政にお願いしたいことを語っていただきます。
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