【連載:在宅医療 北から南から】005 五島正裕(兵庫)第3回

【連載:在宅医療 北から南から】005 五島正裕(兵庫)第3回

2025年問題が迫る中、高齢化が加速し、在宅医療が重要な時代となっています。本連載では、在宅医療の現状、課題、未来を伝えることをテーマに、実際の現場で活躍されている医療従事者の皆さまに、明るく、楽しく、わかりやすく語っていただき、在宅医療の認知浸透を図るとともに、在宅医療を検討したい患者様とそのご家族様に、在宅医療を知っていただくことを目的にしています。
5人目は神戸で2011年から「ホームケアクリニック こうべ」を運営されています五島正裕先生です。
3回にわたるシリーズの最終回3回目は「ホームケアクリニック こうべ」の現在、そして未来についてお話しいただきます。
クリニック、そして五島先生の一日
—診察される患者さんについて教えてください
契約している患者さんは常に120人くらいですね。
実際に看取りをしている患者さんは年間100人くらいで、その7~8割がご自宅で亡くなり、残りの2-3割くらいの方が最後に病院に行って亡くなられています。
常勤医師は1日で7~8人くらいの患者さん宅を訪問します。結構この辺りが限界で、朝8人のスケジュールを見たら、それ見ただけで倒れそうになりますね(笑)。非常勤医師は半日勤務なので、3~4人になります。
これから訪問診療へ、愛車とともに
これから訪問診療へ、愛車とともに
—非常勤の先生にはどのような患者さんを診てもらっていますか
脳神経内科専門医である大学病院の先生には神経難病の患者さんなどを中心に診てもらっています。神経難病の方の在宅診療には、特に専門的な治療をあまり必要としないものもあれば、例えばパーキンソン関連症状の調整のように専門的な介入が必要となってくるものもあります。
専門の先生がチームにいることで、私たちも大変助かっていますし、本当に勉強になります。
このように大学病院の先生に来て頂くことにはもう一つ大きな目的があります。それは先生方が病院で診断し治療してきた患者さんたちが、その後在宅でどのような経過をたどっているのか、その現実をしっかりその目で見て頂くということです。
その経験は間違いなく、その先生方の大学病院での診療や患者さんとのかかわり方に大きな影響を及ぼすと思っています。もちろん良い意味で。在宅での状況を知って頂いた上で病院での診療に携わって頂きたいんですよ。ACP(アドバンスケアプランニング)もきっとより適切に進めていくことができますよね。以前は腫瘍内科や緩和支持治療科の先生方にも来て頂いていたのですが、現在はこちらのマンパワーの問題で止めており、またいつか近い将来に再開したいと考えています。
後方病院で緩和ケアをされている先生にも非常勤医として来て頂いています。
もし患者さんがその先生のおられる病院に入院することになればかなりシームレスな医療を受けて頂けることになります。在宅でみてくれていた先生が病院に入っても主治医をしてくれるということですよね。容易に想像できると思いますが、これは患者さんらに大きな安心感をもってもらうことができます。
—五島先生の1日の動きについて教えてください
朝8時くらいに出社して、カルテを確認します。8時半からは全体ミーティングがあり、前日の夕方以降に変化があった患者さんの情報や相談事項について話し合います。ミーティング後はそれぞれ個別に職種を超えていろいろな相談や確認などをし、その後、各々が訪問診療や訪問看護に向かいます。
診療はだいたい9時半頃からスタートします。昼に帰ってくることもあれば、そのまま回ることもあり、最終4時50分までには戻ってきて、その後40分間、医者と看護師でミーティングを行います。ここでしっかりとその日の情報とその後の方針を共有します。事務職やリハビリセラピスト、ケアマネも随時飛び入り参加します。変化の激しい患者さんが多く、毎日かなり密度の濃いミーティングになりますが、がんばって5時半で終了し、ここでその日の業務終了です。
また別に、毎週月曜日の朝に約1時間、スタッフ全員で治療、ケアの進め方や方針について職種を超えて話し合う時間があります。
訪問診療にて患者さんと
訪問診療にて患者さんと
—時間外の呼び出しはどれくらいあるのでしょうか
医者は私ともう1人の常勤の先生の2人で均等に分けてオンコール当番をしています。訪問看護が入っているケースではうちのステーションであっても外部のステーションであってもファーストコールは看護に取ってもらっています。
看護師が電話や訪問でまず初期対応をし、その後必要に応じて私たちが指示をしたり、あるいは訪問したりしています。看護師さんができることが増えていくにつれて、私たちが訪問することが少なくなりました。というかほとんどなくなりました。いつでも連絡がつき、すぐに相談ができる、そしていつでも必要に応じて往診してくれる、そういった後ろ盾がしっかりあると看護師さんたちはより高いレベルで訪問看護を行うことができるようになるのだと思います。
—休日はいかがお過ごしですか
昔から車が好きで、ダートラという競技をやっていた時期があって、チームに所属して年間10戦くらい競技会に出ていました。大した戦績は残せませんでしたが(笑)。今はその時の仲間と時々カートレースに出ています。
あ、そうそう、最近、友人夫婦に勧められてゴルフを始めたんですよ。学生時代にも打ちっぱなしとか行ったりはしてたんですが、この度初めてゴルフセットも購入して本格的に始めました。ゴルフ、なかなか楽しいです。そういう時間も必要かなと思うようになりました。
カートレースにて
カートレースにて
「港町神戸」の素晴らしさ
—神戸について、必ず行ってほしいところを教えてください
ポートアイランドの中に神戸学院大学がありますが、そこから見る神戸はめちゃめちゃ綺麗ですね。海と山と空と街、そのバランスが抜群に美しいです。
神戸学院大学には外部者も利用OKの海の見えるオシャレなレストランがあり、近隣在住のうちの患者さんたちも時々訪れているようです。機会があればぜひ訪れてください。
神戸学院大学のキャンパスからの風景
神戸学院大学のキャンパスからの風景
—神戸について、必ず食べてほしいものを教えてください
神戸は海が近く、新鮮な魚が豊富に取れます。最近は江戸前寿司が流行っていますが、手を加えずにできるだけ新鮮なまま食べる関西風(明石風?)の握り寿司がおすすめです。「昼網」と言って、その日採れた魚をその日のうちに出してくれます。
あとはやっぱり神戸牛。ちゃんとした神戸牛を出すお店はどこに行っても店主が誇りを持って目利きしてお肉を出しています感が半端ないです。どうぞそんな店主ごと神戸牛を楽しんでください。
また、お寿司にしてもお肉にしても、神戸は京都、大阪、東京に比べて価格が圧倒的にリーズナブルなのもいいですね。
こだわり店主と神戸牛
こだわり店主と神戸牛
新しい挑戦と取り組み
—今年オープンされた「定期巡回・随時対応あおいそら長田」について教えてください
六甲病院で、緩和ケアや在宅医療の現場において、患者さんと目線をあわせて関係を作ることの重要性を学びました。しかし、患者さんらの中にはなかなか心を開いてくださらず、目線をあわせることが難しい場合があります。
ラポール形成においてどの職種がそのきっかけとなっても良いのですが、現場で自然に目線が一番近いヘルパーさんがその役割を果たせる可能性は非常に高く、実際これまでもそういったケースを何度か経験してきました。そのためヘルパーさんにチームに入ってもらい、自身が果たせる、そして果たすべき役割に気づいて頂く必要性を感じていました。
そこで、私は24時間対応のヘルパーサービスである「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の業種に注目し、この度、「定期巡回・随時対応あおいそら長田」をオープンしました。
このサービスはいわゆる丸めの算定であり、介護保険の範囲内での定額のサービスになります。訪問回数の制限はなく、24時間体制でサービスを提供します。
具体的には、必要に応じた1日複数回の定期訪問で食事の手伝いや掃除、洗濯、買い物などの生活介護とおむつかえや清拭などの身体介護を行い、さらに24時間のオンコール体制で随時対応を行うという利用者にとっては素晴らしい制度です。訪問計画は状態に応じて随時変更可能であり、展開が早くてしてほしいことが日々変わる在宅緩和ケアとの親和性はかなりあります。
近隣の定期巡回事業所と何度か連携しながらこのサービスの素晴らしさに気づいたんですが、より強固に連携し、お互いを知ってともに成長していく余地がまだまだあると感じたため、結局は自分で始めることにしました。
ただこのサービスはまだまだ地域には浸透しておらず、私を含め、すでに定期巡回を行っている人々が一生懸命広めようとしているものの、なかなか思うように広がっていきません。あとは何より結局、介護職の雇用が難しい現状もあり、そこもどうにかして行く必要があります。
このサービスの魅力、可能性をもっと世間に広げていきたいと思っています。
立ち上げたばかりで収益状況もまだ不明ですが、今が頑張りどきと感じており、このプロジェクトに全力を注いでいます。
最近の歓迎会でスタッフのみんなと(前列中央が私)
最近の歓迎会でスタッフのみんなと(前列中央が私)
—スタッフ間の情報共有にも力を入れているとお聞きしました
常日頃から在宅緩和ケアの質をさらに向上させるための工夫を重ねていますが、私たちほど診療と看護、介護を密接に連携させているところは全国でも少ないと思います。
例えば、業務用チャットツールを活用して情報共有、連携を行っていて、医師、事務員、看護師、リハビリセラピスト、ヘルパー、ケアマネジャーが参加しており、必要に応じて外部のケアマネジャーや訪問看護ステーション、薬局とも連携しています。
患者ごとに業務用チャットツールでグループチャットを作成し、情報を共有しながら積極的にやり取りを行っています。医者と看護師だけではなく、その患者さんの在宅ケアに関わるすべての職種が参加することに大きな意義があると思っています。
未来に向けて
—国や行政に望むことについて
いわゆるメガクリニックとは違う取り組みを行っているので、そこは評価してほしいと思います。
効率よく多くの患者さんを診察することも大事ですが、一方で時間をかけ、そしてより専門的なアプローチが必要である診察もあります。この差別化をうまくしたうえで、どちらのケースであってもそれぞれ質を追求しながら続けていけるような形を作ってほしい。
あとは看護や介護にもっと適切な評価を頂きたいですね。ここもさらなる差別化が必要だと感じます。先述しました通り、在宅ケアの質の評価は本当に難しいと思いますが、今後も今の質、あるいは今以上の質でサービス提供を継続できるような評価システムの構築をお願いしたいです。
コロナを経て、病院の地域連携室の仕事の仕方が大きく変わってしまったように思います。来院制限により患者さんのご家族とゆっくりと時間をかけて退院前相談するということがしにくくなったことが理由なんでしょうか。以前は院内での退院調整に今よりもう少し手間暇かけていたように思います。
最近では紹介先医療機関の特徴を説明することもなく、パンフレットを並べて選んでもらっているようなこともあるとの噂も耳にします。もちろん一部のことだと信じたいですが。
また、病院によっては地域連携室の看護師配置数が以前に比べ減っているように感じます。看護師以外でもしっかりやっている方はもちろんたくさんおられますが、必要に応じて看護師がより関与する制度設計や、また看護師であってもMSWであってもより退院調整に時間をかけることができるような方向付けが必要なのではと考えています。
—地域住民に望むことについて
在宅医療の存在とその意義をもっと知ってほしいです。
まだまだ病院医療から気持ち的に抜け出せない患者さんが多く、病院での治療が自分にとってもベストであると思いこんでしまっている。でも実際は内科医が手術をしないのと同じで、腫瘍内科医や外科医らがその後必要な治療=在宅医療を提供できるわけではないんです。それまでどれだけお世話になった素晴らしい専門医であっても、そこから先は素人です。
ですから病院が在宅医療を勧めてきたらぜひ飛び込んできてほしい。するとそこからはまた新たに必要な専門家たちがチームを作って対応してくれます。在宅のチームは各分野の専門家たちが痛みなどの身体的苦痛を軽減することはもちろんのこと、どうしたら患者さんたちが毎日を楽に過ごせるか、どうすればご家族が安心して患者さんのそばにいてあげれるかも一緒に考えてくれます。
私たちはそういう思いで毎日仕事をしています。それが在宅医療・ケア、在宅緩和ケアなんですよ。そこを知ってほしいです。
地域の高校介護福祉士コースでの特別授業
地域の高校介護福祉士コースでの特別授業
—ご自身で今後目指すことについて
先述したように私たちがやるべきことの方向性はきまっています。ただどうすればその質をもっともっと上げていけるかがこれからの課題です。
まだまだ道半ばですが、最終的には医師、看護師、リハビリセラピスト、ケアマネやヘルパーさんら介護職、さらには薬剤師らも含め、こういう風に組んでこういう風に仕事をしたらこんなにうまくいくというモデルを作りたい。
自分たちのチームでみれる患者さんの数なんてせいぜいしれているけれども、ひとつの理想的なモデルを作ってそれを他の人が参考にしてくれたらもっと多くの患者さんを支えることに繋がっていく。20年以上前から声高に言われている地域連携、多職種連携。もちろん当時からするとかなり進んだとは思うのですが、これをもう一段上に上げたいと思っています。
それが自分の夢ですね。そこを目指して頑張って行きたいです。
【関連情報】
関連記事
人気記事