国民のための地域医療構想とかかりつけ医機能制度を望む(八巻孝之)



宮城県仙台市 勤務医 前宮城県保険医協会理事

 本年4月、各都道府県は6年1期の第8次医療計画に入った。今次の医療計画には、改正感染症法を踏まえた「感染症予防計画」が盛り込まれ、公衆衛生行政において地域の医療者に参加を求める枠組みを作る点で重要である。だが、わが国の医療制度改革の本幹は都道府県単位の医療費管理抑制システム構築と医療費の地域差縮減にあり、注視すべきは「新たな地域医療構想」と「かかりつけ医機能報告制度」である。

 現在の地域医療構想は2025年に目標年度を迎え、次の2040年を目途とした「新たな地域医療構想」が予定されている。現在の地域医療構想は「病床の機能分化・連携」を取り扱ってきたが、外来や在宅医療等を含めた医療提供体制全体の議論が十分ではなかったように思う。目指す外来機能分化は、医療資源を集中的に投入する紹介受診重点医療機関と、かかりつけ医機能を担う医療機関の二つに再編する構想のようだが、新たな地域医療構想には、必要病床数と同様、一律の計算式による「機能別外来医療機関数」が目標設定される可能性が高い。

 一方、「かかりつけ医機能報告制度」は、医療法上、患者に対して文書等で説明する努力義務が医療機関に課されることになった。施行は来年4月からである。これまで各都道府県運用の「医療機能情報提供制度」から全国統一の医療機能情報提供制度(愛称「ナビイ」)に移行され、診療科目ごとの診療日や診療時間などの基本情報のほか、在宅医療やオンライン診療の対応、バリアフリー化の実施などの報告を医療機関に義務付ける。医療機関等情報支援システム「G—MIS」(ネット環境がない場合は書面)を経由して必要な情報を都道府県に定期報告する義務が医療法上課されることになり、医療機関への負担はさらに増えるだろう。医療機能情報提供が真に患者の役に立つ制度なのかどうか、十分な検証が必要である。取得したデータを活用した「必要かかりつけ医数」を、新たな地域医療構想に目標化させる仕組みであってはならない。この「必要数の設定」は、開業医数適正化の手段となる危険性をはらんでいる。

 「かかりつけ医」とは、本来、患者と医療者の信頼関係をもとにつくられるものであり、かかりつけ医を持つこと、選ぶことは国民の権利であって義務ではないはずだ。一方的にかかりつけ医機能を定義して管理する枠組みの議論であってはならない。また、かかりつけ医機能を医療費削減に利用することは許されない。患者と医師の関わりの中で必要な「かかりつけ医」機能を発揮できるよう、診療報酬で下支えすべきだからである。

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