投稿日: 2017年1月30日 12:00 | 更新:2017年6月27日10:48
■取材 慶應義塾大学病院
耳鼻咽喉科 診療部長・教授
小川 郁 医師
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耳の構造と音が伝わる仕組み
音は外耳道を通り、中耳の鼓膜、耳小骨に振動として伝えられ、増幅される。この振動が内耳の蝸牛と呼ばれる器官で電気信号に変換され、聴神経を介して脳が「音が聞こえた」と感じる。この経路のどこかに問題があると「難聴」となる。
伝音難聴とは
鼓膜や耳小骨に代表される外耳や中耳などが、中耳炎などによって機能障害を起こし、音が伝わりにくくなる難聴。物理的障害なので鼓室形成術やアブミ骨(耳小骨の一部)手術などで聴力が改善することがある。
感音難聴とは
「音が伝わる仕組み」をもう少し詳しく説明すると、耳小骨の振動は内耳中のリンパ液を震わせ、さらに蝸牛内部の有毛細胞を揺らす。有毛細胞には音を感じるセンサーである内有毛細胞と、必要な音が微弱な場合は増幅し、それ以外の音を抑制して音の刺激を調節する外有毛細胞があり、協力して音を脳へ伝達している。そのシステムに障害が発生してしまうのが感音難聴。慢性的なものは主に加齢が原因である。このほか伝音と感音の2つが混在した混合性難聴がある。
補聴器の大きなメリットは「聞きたい音のみ音量を上げられること」。会話がスムーズになるだけではなく、趣味や活動の幅が広がったり、自信につながったりするなど、自分らしさを保つことにもつながる。また「きこえ」の刺激は脳の働きとも密接に関係している。再生能力が無い有毛細胞と異なり、脳の聴覚中枢は徐々に変化する。補聴器はメガネなどと異なり、調整と脳のトレーニングによって音に慣れていく必要がある。そこで補聴器を持続的に使用して聴覚をトレーニングし、それにあわせて適切な調整を行っていくことが、より良い「聞こえ」を取り戻すことにつながる。最近では認知症とのかかわりについても、研究が進んでいる。
近年ではデジタル方式が主流になり、一人ひとりに応じた調整が可能となった。結果、装着時の聞き取りやすさが大きく向上している。また「ハウリング低減」や、雑音を抑制して聞きたい音を抽出する「ノイズキャンセル」、一定の場所からの音を増幅する「指向性」など、ソフトウェア面でも進歩が著しい。
補聴器にはさまざまな種類が開発され、患者の状態や希望にあわせた機種を選択できる。1990年代頃までは耳あな型が主流だったが、デジタル技術の導入に伴い、より小型で、スタイリッシュ・カラフルな機種が登場している。そのことも影響し、現在では耳かけ型が主流となっている。
耳あな型
・耳の中に収まるため、小さく目立たない。
・耳の形状にあわせてつくるオーダーメードが一般的で、
フィット感に優れる。
・自然に近い形で音をとらえられる。
耳かけ型
・耳に掛けて使用する。
・比較的高出力のため、幅広い聴力に対応できる。
・操作が簡単で扱いやすく、着脱しやすい。
・「小さく目立たない」、「閉塞感の少ない」、
「カラフル」などさまざまなタイプがある。
メガネ型
・メガネのツル部分に補聴器を内蔵し、メガネをかけた状態での骨伝導で音を伝える。
・メガネのレンズと補聴器の両方を調整する必要がある。
ポケット型
・本体をポケットに入れ、そこからイヤホンとコードをつないで使用する。
・耳への着脱や音量調整がしやすい。
・補聴器本体にもマイクがついているため、寝ている姿勢でも本体を置く位置で集音方向を決められる。寝たきりの高齢者に適し、介護現場での需要がある。
難聴の程度や適合機種
異常を感じた場合は、まずは耳鼻咽喉科を受診することが大切である。耳鼻咽喉科では純音検査、語音聴力(言葉の聞き取り)検査、内耳機能検査などによって、難聴の程度や種類を調べ、治療が可能か、補聴器が必要かを診断してくれる。補聴器が必要な場合は聴力の状態、社会的な必要性に応じて補聴器を選択するが、その際は聴力障害と補聴器活用を熟知した「補聴器相談医」に相談すると良いだろう。
お店選びのポイントと補聴器外来
日本耳鼻咽喉科学会のトレーニングを修了した認定補聴器技能者が補聴器の適合を行っている補聴器販売店を選ぶと良いだろう。それでもなかなか満足できる効果が得られない方におすすめなのが「補聴器外来」。補聴器適応判定医や補聴器相談医の資格をもつ医師が補聴器適合検査を行い、医学的な面から的確にアドバイスしてくれる。