投稿日: 2017年8月22日 17:04 | 更新:2017年8月22日18:44
■取材 メディカルトピア草加病院
外科・ヘルニアセンター長
亀井 文 医師
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足の付け根がふくらんだり痛くなったりする鼠径ヘルニア。別名「脱腸」ともいう通り、腹壁の弱くなったところから、腹腔内の腸などが皮下に飛び出してくる病気である。良性疾患ではあるが、放置すると腸管壊死などの緊急事態になる可能性もあるという。治療方法は手術しかなく、その中で近年注目されているのが、小さな切開から内視鏡や手術器具を通して行う腹腔鏡下手術だ。
鼠径ヘルニアの手術は、腹壁の弱くなった部分をメッシュで補強する手術が行われる。従来法では、腹部を5~6㌢程度切開する必要があったが、腹腔鏡下手術では小さな切開3か所で済む。それぞれが5㍉程度(施設により異なる)なので、傷の痛みが非常に少ない上に見た目にも傷がわかりにくいという。「見た目にも、手術をしたことが分かりにくい傷あとになりますし、傷の痛みも非常に少なくなりました」と語る亀井文医師。
腹腔鏡下手術のメリットは実は創の小ささだけではないという。その一つが、診断の確実性だ。「鼠径ヘルニアは内鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアなどの総称で、それぞれ異なる部位から発生します。時には複数個所から同時に発生することさえあるのです。さらに、一度治療をした後に再発すること(再発ヘルニア)や、左右の鼠径部両側にヘルニアがあること、時には複雑な形態になっていることがあります」と亀井医師。それらの診断は腹腔鏡で見ることで分かりやすく、見逃しがなくなるのだという。「腹腔鏡下手術は、患部をモニターで大きく写しだし、それを複数の医師、看護師等で見ながら行うため、細い血管や神経も腹腔鏡の拡大視効果でよく見えるのです」
加えて、腹腔鏡下手術では腹腔内から広いメッシュを挿入できるため、内鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアが発生しうるすべてのカバーが可能になる。
腹腔鏡下手術の利点は他にもあると亀井医師。「鼠径部の皮下には下肢や陰部に向かう神経が走行しています。従来法では、神経の走行する近くにメッシュを留置するため、結果として術後の慢性疼痛を引き起こす可能性がありました。それに対し、腹腔鏡下手術では、神経がある部位に触れることなく、アプローチできます」
また、腹腔内から腹壁の筋肉の内側にメッシュを入れるために筋肉や筋膜を切開する必要がない。 「術後の違和感や痛みが少ないために、すぐにスポーツや力仕事、立ち仕事に復帰しなければならない患者さんにも向いている治療法です」
こうしたさまざまなメリットを享受できる反面、最先端の技術を駆使して行われる腹腔鏡下手術には、その器具を操作する技術と経験が求められる。「腹腔鏡下の鼠径ヘルニア修復術は、約20年前から行われている歴史のある手術ですが、日本では最近になって行う施設が急速に増えていることも事実です。腹腔鏡下手術を安全に確実に行うには、施設自体の経験や各医師の修練が必要とされます」と強調する亀井医師。それらの目安の一つとして挙げられるのが、日本内視鏡外科学会の技術認定医取得者が手術や指導を行っている施設であるかどうかだ。技術認定は同学会ホームページで確認できるため、経験豊富な医師のいる医療機関を探す際の参考にすると良いだろう。
「鼠径ヘルニアの患者さんは、一人ひとり、ヘルニアの大きさも場所も異なります。また、極初期の、小さな鼠径ヘルニアであったとしても痛みがつらい場合もあれば、受診するきっかけがなく長年放置している方も珍しくない疾患です。ですが、手術を受けられた方から、『こんなに楽なら早くやっておけばよかった。今までの悩みが消えて嬉しい』と言われることも数多くあるのです」と亀井医師は言う。負担の少ない手術が鼠径ヘルニアで悩む患者の助けとなるに違いない。