投稿日: 2017年11月9日 9:00 | 更新:2024年1月18日5:07
多くの症例に触れて培った技術で
患者にとって最も負担の少ない手術を
■取材
平和病院副院長
横浜脊椎脊髄病センター長
田村 睦弘 医師
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近年、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、側弯症などの背骨の疾患に対し、背中の大きな切開や、筋肉の剥離を抑えた低侵襲手術が行われている。田村睦弘医師はそうした治療を積極的に取り入れ、6000例以上の脊椎脊髄手術を手がけてきた。現在では内視鏡を用いたMED(脊椎内視鏡手術)や、後方からの低侵襲固定術(MISt手術)、体の横から椎間板ケージを挿入するXLIF(腰椎側方進入前方固定術)など、幅広い手技を導入し、一人ひとり患者にあわせて使い分けている。
今でこそ、ほとんどの症例で低侵襲手術を選択しているが、医師になってしばらくは積極的には取り組んでいなかった。「術後の回復の速さから、ゆくゆくは低侵襲手術が普及すると感じていました。ただ、国内に入ってきたばかりの当時の内視鏡はカメラの解像度も低く、あたかも霧の中で手術をするかのようでした。また、満足いく低侵襲固定インプラントもなく、低侵襲手術が安全で確実にできなかったのです」。そこで最初の頃は、従来の切開手術を中心に行い、脊椎手術の基本手技のみならず、神経組織や硬膜、大血管や臓器の修復といった合併症に対する手技を習得した。手術機器の進歩と、自身の手術手技の向上を確信したところで、低侵襲手術を本格的に導入したという。
手術のベースとして挙げるのが、骨や神経、周辺の組織や血管、臓器などの位置を空間的に認識すること。切開が小さくなれば、それを視野の狭い中で可能にしなければならない。「そうした基本的な力を培うためには、手術に触れる数を増やさねばならない」と考え、若い頃は自分の担当患者でなくても助手に入り、加えて自分が執刀していなくても執刀医の目線に立って手術内容をまとめるなど、とにかく多くの手術に接してきたという。そして、その際には全症例において記事やイラストで記録を残し、執刀医と貴重な術野を共有したことを記憶するよう心がけていた。空間的な認識力を培い、トラブルの対処法を学んだことが、自らの貴重な経験となり、現在の低侵襲手術を行うにあたって大きく役立ったという。
田村医師は、多くの経験を重ねてきた現在でも、まだまだ技術は不十分と考え、研鑽を重ねるとともに、新しい術式の導入も進めている。脊椎脊髄手術は、医師の技術や経験が治療結果に大きく関わる分野だと考えているからだ。脊椎の手術で削ったり固定したりする硬い骨の近くには、人体において重要な脊髄や神経が走っている。その軟らかい神経を傷つけずに手術を進めなければならない。加えて、がんなどと違い、抗がん剤治療や放射線治療、血管内治療など、他の治療の力を借りることも難しい。「それだけに脊椎脊髄手術は、外科医の技術力によって患者さんの運命が大きく左右される、非常に厳しい分野だと言えるのです」。それを痛感しているからこそ、低侵襲手術自体も、合併症の発生など、現状抱える問題点を見据え、患者にベストな治療法や術式は何かを厳密に選択していくという。
現在では、培ってきた技術・知識を後進に伝えることも重要な役割と考え、積極的に取り組んでいる田村医師。「私達の世代は、幸いにも、従来からの開いて行う手術と、内視鏡や低侵襲固定などの低侵襲手術の両者を行ってきた唯一の世代ではないでしょうか。先輩の世代では低侵襲手術の経験が少なく、逆に後輩の世代では大きく開く手術の経験が少ないのです」。そうした立場だからこそできる、脊椎脊髄手術への貢献を日々考え続けている。