~年のせいと諦めないで~
瞼(まぶた)の緩みに眼瞼下垂症手術

 
日本眼形成再建外科学会理事
日本医科大学武蔵小杉病院
眼科(眼形成外科)講師
形成外科 元教授

 
【寄稿】
むらかみ・まさひろ
村上 正洋
 
 

眼瞼下垂とは~2つの眼瞼下垂~

 日本眼科学会の一般向けホームページには、「眼瞼下垂とは目を開いたときに上眼瞼縁が正常の位置より下がって上方の視野が狭く感じられたり、外見が悪くなったりといった不都合が起こす状態を指す」と説明されています。また、日本形成外科学会では「おでこの筋肉(前頭筋)を利用して瞼(まぶた)を上げようとするため、眉毛の位置が高くなり、額のしわが目立つようになります。頭痛、肩こりの原因になることもあります」とも記載されています。このような状態を来す眼瞼下垂には、生まれつき(先天性)のものと後々何かの原因で生じる(後天性)ものがあります。なかでも加齢やハードコンタクトレンズの長期装用、ある種の緑内障点眼薬、白内障などの内眼手術により生じるものが多く見られます。これらは瞼を挙上する眼瞼挙筋の機能は正常ですが、そこから瞼の下方に延びる眼瞼挙筋腱膜が変性や外的刺激により緩んでしまうことで生じるとされています。これらは真の眼瞼下垂です。
 
 一方で、類似の疾患として皮膚弛緩症があります。これは偽の眼瞼下垂ですが、症状は真の眼瞼下垂と極めて似ています。加齢現象で上眼瞼の皮膚が緩むことが主な原因ですので、すべて後天性です。誰にでも生じる現象ですが、緩んだ皮膚が瞼縁(睫毛の生えているところ)を超えて垂れ下がると、上方視野が障害されます。
なお、真であっても偽であっても眼瞼下垂の大きな原因は加齢現象ですので、高齢者では両者を合併することも珍しくありません。
 
 

 
 

視野障害などの機能障害があると保険適応に

これら2つの眼瞼下垂ですが、ともに視野障害を来せば保険適応での治療ができます。その大まかな目安は、黒目の中心にある瞳孔の上縁に下垂した瞼がかかるか否かとなります。日本形成外科学会のガイドラインでは、上眼瞼縁と瞳孔中心の距離(瞼縁角膜反射間距離)が2㎜以下で手術を要する評価基準になると記載されています。ただし、2㎜以下になればすべての方に手術が必要となるわけではなく、視野障害の自覚や瞼の重たさ、場合によっては肩凝りや頭痛といった、それに関連が濃厚な症状の訴えがあった場合となります。もちろん外見の悪さ、眠そうな印象なども整容的には重要ですが、それのみでは保険適応になりません。
 
 

 
 

 一般的に眼瞼下垂の視野障害は上方から始まりますが、日常生活では下方視をしていることの方が多いため、下垂が軽度であれば不自由を感じない方も多くいらっしゃいます。しかし、眼瞼下垂が徐々に進行すると上方視野障害のため顎を上げるようになり、下方視にも問題が生じてきます。他方、皮膚弛緩症の場合は外側(耳側)の皮膚から下垂する傾向がありますので、正面はよく見えても、外上方が見づらいという症状から始まります。

 
 

症状により手術方法も様々

ご自身の眼瞼下垂が真か偽かで手術方針が大きく変わります。真の眼瞼下垂では眼瞼挙筋腱膜を緩んだ分だけ短くする眼瞼挙筋前転法が代表的な手術方法です。眼瞼挙筋腱膜の代わりに瞼板筋(ミュラー筋)や眼窩隔膜を用いることもありますが、手術結果に関して一定の見解はありません。一方で、偽りの眼瞼下垂では眼瞼の皮膚を緩んだ分だけ切除します。切除する部位は眉毛の下か二重の部位になりますが、得られる結果に差がありますので、手術を受ける際には担当医から十分に説明を聞いてください。
 
 

緩みが始まる前の写真を参考に?

 誰もが若い頃に戻りたいものです。そのため、昔の写真を持参する患者さんもいます。しかし、若い頃に戻すことが本当にハッピーでしょうか?決してそうではありません。年齢を重ねた全体の印象に比し目だけ大きいのは不自然です。加えて涙の質や量も年々変化するため、目を大きくし過ぎるとドライアイの発症など思わぬ違和感が生じることもあります。従いまして、年齢相応にすることをお勧めします。
 
 

手術後の経過、ダウンタイム(普段通りの生活に戻るまでの期間)は?

 術後の腫れや内出血で日常生活に多少の制限が必要となります。その期間はおおよそ2週間ですが、年齢や内服薬などに影響されます。やはり若い患者さんほど回復は早く、高血圧症がある高齢者ほど長引く傾向があります。また、高齢者の中には血液をサラサラにする薬を内服している方も多く、さらに強い内出血を生じることもあります。そのため、患者さんによっては自己判断でサラサラ系の薬を止める方がいますが、危険な行為ですので、執刀医と処方医の指示に必ず従ってください。多くの眼瞼の手術では休薬の必要はなく、抗凝固・抗血小板療法に関するガイドラインでも休薬を強くは勧めていません。いずれにしましても、腫れや内出血は必ず改善しますので、過剰な心配は不要です。
 
 

眼科か形成外科か、それとも美容外科か?病院選びのポイントは

 難しい問題で、患者さんからよく質問を受けます。まずは美容医療と保険医療の違いですが、一般的に前者は唯一の目的が整容の改善とするもので、眼瞼では視機能に問題がない患者さんを希望の外観にする行為となります。そのため、術後の視機能を絶対に落としてはなりません。一方で、後者は視機能を改善することが最大の目的であり、整容に関しては不自然さのない外見に仕上げること、つまり年齢相応にすることを目標とします。
 
 では、保険診療では何科を受診すべきでしょうか?海外には眼形成外科という眼科と形成外科の中間的な診療科があり、眼球以外の眼科疾患を主に手術で治療していますが、残念ながら日本では一般的な診療科にはなっておらず、眼形成外科を掲げる医療機関は全国にわずかです。そのため眼形成外科医と呼べる医師も極めて少なく、受診すべき診療科は眼科か形成外科という問題が生じます。
 
 眼瞼下垂の手術の第一義的目的は視機能の改善です。しかし、「瞼は整容の要」「瞼には2つの力がある。それは視力と魅力」などとしばしば言われることからも、整容の改善も疎かにはできません。よって、眼瞼の手術では眼科的知識と形成外科的手術手技が必要になりますが、両者を兼ね備えた医師は少ないため、解決策としては形成外科的手術手技のトレーニングを受けた眼科医、もしくは眼科と協力体制を構築している形成外科医を探すことが重要です。大病院でなくとも十分に手術可能な疾患ですので、このような医師を見つけることができれば安心です。日本眼形成再建外科学会などのホームページも参考になると思います。

 
 

 
 


日本眼形成再建外科学会理事     
日本医科大学武蔵小杉病院
眼科(眼形成外科)講師
形成外科 元教授

 
【寄稿】
むらかみ・まさひろ
村上 正洋
 
 


 

 
 

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