~甲状腺機能の異常、甲状腺腫瘍など幅広い疾患に対応~
甲状腺疾患の診療で頼れる病院・クリニック

 
伊藤病院学術顧問
帝京大学医学部名誉教授
慶應義塾大学医学部外科講師(非常勤)
東京大学大学院臓器病態外科学講師(非常勤)
 
【寄稿】
タカミ・ヒロシ
高見 博
 
 

見逃しが多い甲状腺疾患。 異常があれば早めに受診し、早期治療で快適な人生を目指しましょう。


 

新陳代謝と自律神経に深く関わる甲状腺疾患

 甲状腺は新陳代謝や骨・神経、精神などの成長を促すホルモンを作っている臓器です。喉仏の下にあり、蝶が羽を広げたような形をしています。甲状腺の病気は、「機能亢進症(バセドウ病)」「機能低下症(橋本病)」「結節(腫瘍)」に分けられます。
 
 機能亢進症であるバセドウ病と機能低下症である橋本病はともに自分の免疫が体の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患で、女性に多くみられます。バセドウ病は甲状腺刺激ホルモン受容体が体内の免疫に異物とみなされて攻撃・刺激を受けた結果、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されて発症します。比較的若い世代に多く、15歳位から発症し、30歳代でピークを迎えます。特徴的な症状には首の腫れや、頻脈、動悸、眼球の突出などがあります。さらに内臓の働きや代謝が上がるため、空腹感、下痢、イラつき、集中力欠如など精神症状も生じます。
 
 一方、橋本病は甲状腺の組織が自身の免疫で破壊され、甲状腺ホルモンを十分産生できなくなることが原因で起こります。中高年に多くみられ、症状はバセドウ病と逆で代謝が悪くなり、体のだるさや便秘、食事量の減少、体重増加、発汗の減少、脈拍低下などが生じます。高脂血症、動脈硬化、気力の低下のほか妊娠しにくくなる可能性もあります。

 
 

 
 
 両疾患は、自律神経と深い関わりをもっています。自律神経には交感神経と副交感神経があり、さまざまな臓器の機能を調節しています。バセドウ病では交感神経が優位になった状態に似ており、橋本病は逆に交感神経が低下し、副交感神経が優位になった状態と似ているため、このような乱れがある場合は甲状腺疾患を疑います。
 
 バセドウ病の治療は、抗甲状腺薬を用いる薬物療法を行います。それでも効果が得られにくい場合には放射性ヨード内用療法(アイソトープ治療)や手術を実施します。橋本病では、病気の進行により機能低下が生じた場合、甲状腺ホルモン剤を内服する薬物療法を行います。
 
 

 
 

悪性腫瘍であってもほとんどが予後良好

 甲状腺には結節(しこり)ができることもあります。早期では自覚症状はほとんどなく、あったとしても首に違和感がある程度です。悪性で進行した場合には声がかすれたり、飲みにくくなったりすることもあります。
 
 通常、甲状腺の結節は触診、超音波検査(エコー)で見つけ、良性と悪性の鑑別には針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で調べる穿刺吸引細胞診が行われます。悪性の場合にはCT検査で腫瘍の広がりを見て治療方針を決めます。
結節のうち、90%以上は良性腫瘍です。腫瘍の増大傾向を表すサイログロブリンが異常高値を示すなどの所見がなければ経過観察をするのが一般的です。特に、腫瘍径が1㌢以下の場合は、長期に経過観察してもほとんど増大しないことがわかってきました。腫瘍径が4㌢以上などの大きい場合には手術を検討することもあります。
 
 悪性腫瘍(甲状腺がん)の場合でもほとんどが予後良好な乳頭がんで、大きさが1㌢以内であれば手術をしないこともあります。まれながんとして、髄様がん、最も予後の悪い(質の悪い)未分化がんなどもあります。
 
 甲状腺がんの治療は、手術のほか放射線ヨウ素内用療法や薬物療法を行います。手術で甲状腺全摘をした場合には、生涯にわたり甲状腺ホルモンを内服する必要があります。薬物療法にはTSH抑制療法というホルモン剤を用いた治療を行います。甲状腺ホルモン薬を内服して下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を抑え、腫瘍の増殖を防ぎます。また分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など、新しい薬剤も次々と登場しています。手術はもとより、放射線治療にも抵抗する難治性進行甲状腺がんに対してもこれらの薬剤は有効で、患者さんの生活の質を高め、延命に寄与しています。

 
 

 
 

福島原発事故による甲状腺がんへの影響

 2011年の福島第一原発の事故により、事故当時18歳以下の福島県住民に対し超音波検査が行われ、さらに細胞診も行われました。その結果、251名が甲状腺がん、またはその疑いと診断されています。県の小児甲状腺がんでは、チェルノブイリ原発事故の結果に比べ被曝線量が非常に少ないことがわかっています。発症年齢が高く、がんの組織型や遺伝子変異の違いも明らかであり、県で発見される小児甲状腺がんはスクリーニング効果(大人数に対し行った超音波による過剰検査)の可能性が高いと考えられています。21年3月9日の国連科学委員会の公表では、今回の県住民の甲状腺がんは被曝の影響による増加ではなく、高性能の超音波検査によって「生涯発症しないがんを見つけた過剰診断の可能性」が指摘されました。県の評価部会の専門家も同様の指摘をしています。
 
 

 
 

5月25日は「世界甲状腺デー」甲状腺疾患の周知と早期治療を

 甲状腺のさまざまな疾患について日本甲状腺学会は08年に欧州甲状腺学会が5月25日を「世界甲状腺デー」と制定したのに合わせ、甲状腺疾患啓発・検査推進運動を展開しています。
 
 日本では甲状腺疾患の罹患数は500万~700万人で、そのうち治療が必要な患者は240万人と報告されています。しかし、実際に治療を受けている人は約45万人とされており(平成26年厚生労働省患者調査)、未治療の患者さんがいかに多いかがわかります。
 
 その理由として、甲状腺疾患はよくある病気であるにもかかわらず多彩な症状を呈するために、疾患として認識されなかったり、ほかの疾患と間違われたりすることが多いからです。そこで、日本甲状腺学会では「病気に対する認識の向上」、「優れた甲状腺検査の普及」を目指して取り組んでいます。
 
 

日進月歩の進化を遂げる医療「生活の質」を求める時代に

 甲状腺に限りませんが、近年の医学・医療の進歩は目覚ましいものがあり、まさに日進月歩です。今まで治らなかった病気が完治する時代になってきています。
 
 すでに診療に応用されている有望株の一つは、AI(人工知能)です。CT検査、超音波検査をはじめ病理組織検査、細胞診検査などでも高い診断力を発揮して、専門医の診断を超えているときもあります。採血結果の診断もAIの得意分野です。さらに今後期待されるのはゲノム医療に基づく遺伝子検査・診断です。遺伝子というと尻込みされる方も多いかもしれませんが、決してこれで新たな遺伝病を見つけようとしているわけではありません。病気の原因になっている遺伝子を解析し、診断・治療に役立てようとするものです。
 
 多くの方々が健康に気を遣われ、「生活の質」を求める時代となりましたが、現在でも「なんとなく調子が悪い」「気分がすぐれない」などという状態をそのまま我慢していらっしゃる方も多いと思います。
 しかし、その中に甲状腺の病気が隠れていることがあります。甲状腺の病気はきちんとした専門医の診療を受ければ、多くが完治し、快適な人生を送ることにつながります。特に、甲状腺の病気は若いうちからかかることが多いのでなおさらです。 
甲状腺の疾患を知り、早期発見・早期治療で健やかな生活を目指しましょう。

 
 

 
 

甲状腺疾患を知り、早期発見・早期治療を。




 
 


伊藤病院学術顧問
帝京大学医学部名誉教授
慶應義塾大学医学部外科講師(非常勤)
東京大学大学院臓器病態外科学講師(非常勤)

 
【寄稿】
タカミ・ヒロシ
高見 博
 
 


 

 
 

人気記事