投稿日: 2021年5月20日 8:30 | 更新:2024年1月9日12:58
【寄稿】
医療法人社団ラルゴ
三木メンタルクリニック理事長
ミキ・カズヒラ
三木 和平
医学博士
日本精神神経学会認定精神科専門医専門医
精神保健指定医
日本精神神経科診療所協会理事・会長
日本精神神経学会代議員など
5月病という言葉があるとおり、新入社員や大学新入生が新生活を始めて1カ月ほど経つと、出勤や通学がしづらくなる、できなくなるといったことは少なくありません。これらは新しい環境に馴染めなかったり、過剰に適応して疲れてしまったりするといったことのほか、大学生の場合では入試で燃え尽きてしまった場合などにも認められます。
昨今は新型コロナウィルス(COVID-19)感染症の影響で、在宅勤務(テレワーク)やオンライン授業などが増えたことによる在宅ストレスも増加しています。このように人間は、新しい環境に遭遇すると、それに適応しようとして交感神経が優位になって緊張状態が続くことになり、自律神経失調症の症状を認めるようになります。自律神経失調症の症状としては、頭痛、肩こり、嘔気、動悸、緊張、めまい、睡眠障害、倦怠感など様々な症状があります。気力の低下とともに抑うつ気分が強まるうつ状態、いわゆる「コロナうつ」も認めます。
こうした症状に精神科や心療内科を受診される方も多いかと思います。よく心療内科と精神科はどう違うのか質問を受けますが、ストレスから身体症状が起こっている場合は心療内科、躁うつ病や統合失調症等より精神的な問題が大きい場合は精神科を受診していただくことになりますが、軽度の場合はどちらでも診療いたしますので、大きな違いはありません。原因不明の不調が続くようであれば、軽症でも受診していただければと思います
治療に関しては、職場環境などが原因の場合は、環境の調整などを行います。配置換えや仕事量を調整することだけで良くなることも多々あります。それでも改善しない場合や、不安や抑うつ症状が強い場合には、抗不安薬や抗うつ薬などを使用します。不眠が強い場合は入眠剤を使用します。抗うつ薬は効果発現まで8週間くらいはかかりますので、経過をみることが大切です。軽症のうつ病の場合は認知行動療法(CBT)も有効といわれています。うつ病になりやすい方には特徴的な認知パターンがあるといわれており、白黒思考や完全主義、部分的焦点付け、悲観的思考などが認められます。CBTでそうした考え方を修正することは効果的であるとされています。
51名以上の社員がいる企業では産業医を置くことが義務づけられており、それ以下の企業では地域産業保健総合支援センターなどを利用することができます。過重労働やメンタルヘルス不調の場合は産業医に相談できますが、産業医にはメンタルヘルスのケアを専門とする方は少ないのが現状です。そのため、精神科や心療内科と連携を取ることも必要です。当クリニックでもよく、産業医からの診察依頼が来ます。産業医は会社の安全衛生委員会にも参加しますが、こうしたクリニックとの情報の共有も重要です。
復職支援プログラムとしてはリワークプログラムがあります。うつ病等による長期休職をした方や復職しても再休職を繰り返す方にはリワークプログラムへの参加が有効です。リワークプログラムは公的なものとしては障害者職業センターのリワーク支援、クリニックなどでのリワークプログラムがあります
当院では2007年からリワークプログラムを実施しています。当院はショートケアで行っており、5、6名の少人数のグループで午前はクローズドのインテンシブ(集中)コース、午後はオープンのベーシック(基本)コースで3カ月で1クールになっています。基本的にはうつ病、双極性障害、適応障害の方を対象にしています。プログラムはCBTやSST(生活技能訓練:Social Skills Training)等を中心に、心理教育、リラクゼーションなども行います。心理教育は私が担当して疾病理解、再発予防、復職へのガイドラインなどの講義を行っています。
このように、新しい環境、特にコロナ禍でメンタルヘルス不調を感じてつらいときは、上司や産業医(大学生の場合は健康管理センター)に相談し、精神科や心療内科クリニックなど街のこころのお医者さんを気軽に受診して下されば幸いです。
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