投稿日: 2021年6月9日 18:30 | 更新:2024年1月9日12:55
代表的な希少がんである肉腫。四肢や体幹部の”しこり(腫瘤)”や”はれ(腫脹)”に気づいたら、早めに専門病院を受診しましょう。
骨軟部腫瘍とは、全身の骨や軟部組織(筋肉、脂肪、神経など)から発生する腫瘍の総称です。悪性の骨軟部腫瘍のことを肉腫(英語ではSarcomaサルコーマ)とも言います。骨の肉腫には代表的なものとして、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫などが、軟部組織の肉腫には代表的なものとして、脂肪肉腫、未分化多形細胞肉腫、粘液線維肉腫、滑膜肉腫、平滑筋肉腫などがあります。
これらの肉腫は胃がんや肺がんなどの上皮性悪性腫瘍(より狭い意味で「がん」と呼ばれます)に比べて発生頻度は極めて低く、悪性腫瘍全体に占める肉腫の割合は約1%に過ぎません(表1、2)。
このようにまれな腫瘍である(希少性)にも関わらず、肉腫は若年者から高齢者まで幅広い年齢層の患者さんの全身のさまざまな部位・組織から生じるため(多様性)、その症状や必要とされる治療、治療効果もさまざまです(図1)。
したがって、肉腫に対して良好な治療成績を得るためには、整形外科、内科、外科、小児科、放射線科、病理科など、肉腫の診断と治療に精通した専門家が、診療科の枠を越えて緊密に連携し、各々の患者さんの病態に最も適した集学的治療を行うことが極めて重要です。そのため、世界的に主要ながんセンターには、肉腫(サルコーマ)センターが設置され、初期治療から進行期まで専門家チームが一貫した治療を行うことにより、優れた治療成績が得られるようになっています(図2、表3)。
外科的な観点からは、四肢に生じた悪性骨軟部腫瘍では、かつては多くの患者さんが手足の切断を余儀なくされていましたが、現在では、画像診断の進歩や手術法の発達により、多くの患者さんで手足を残した手術(患肢温存手術)が可能となっています。(表3)。肉腫は主に骨や筋肉といった運動器に発生するため、患肢温存手術では、広範な組織欠損による患肢機能の低下が問題となります。したがって、患肢温存手術では、腫瘍用の特殊な人工関節や、液体窒素など特殊な処理を施した自家処理骨、マイクロサージェリーを用いた組織移植など、さまざまな技術を用いて、より機能的な手足を残すことが試みられています。
(図3)。
また、近年、患者さん一人ひとりのがんの遺伝子変異に合わせた治療を行うがんゲノム医療が普及しはじめています。たとえば、もっともゲノム医療が進んでいる肺がんでは、進行・再発例には,遺伝子変異検査とPD-L1免疫組織化学染色検査を行い,患者さんごとに最も適した治療を行うことが可能となっています。ゲノム医療中核拠点病院などでは、「肉腫」と診断された患者さんでも、このような個々の患者さんに応じて遺伝子異常に応じた分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの治療薬の選択ができるようになってきています。
以上のような肉腫の希少性、多様性という特徴から、専門施設でない場合、しばしばその診断や治療に難渋し適切な治療を行うことが困難なことも少なくありません。また、不適切な治療を受けた後に専門施設に紹介される患者さんも少なくありません。
そこで、近年、毎年7月は『肉腫啓発月間』として、黄色いリボンをシンボルに、この希少がんの認知度向上に向け、全世界で様々な啓発活動や研究支援・治療法開発のための活動が行われています。
さらに、治療症例数の多い、いわゆる”high volume center”で治療を行うことでより良好な治療成績が得られることはすでにいくつかの論文でも示されており、1-3、肉腫は患者さんの専門施設への集約化が、より良い治療成績を得るためには重要な疾患の一つと考えられています。
肉腫(サルコーマ)を知り、早期発見、専門施設での早期治療により、治癒を目指しましょう。
文献
1. Gutierrez JC, et al. Ann Surg. 2007;245(6):952-8.
2. Ogura K, et al. J Bone Joint Surg Am. 2013;95(18):1684-91
3. Bagaria SP, et al. Sarcoma. 2018;2018:3056562.
【寄稿】 国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科科長 かわい・あきら 川井 章 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本リハビリテーション医学会認定 リハビリテーション科専門医 日本がん治療認定医機構認定 がん治療認定医 1985年岡山大学医学部卒業。 1996年米国メモリアルスローンケタリング癌センター留学 2013年国立がん研究センター希少がんセンター長、2017年より現職。
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