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大崎市民病院

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宮城県北部(県北)の基幹病院が地域と地域住民のために
「ロボット支援手術の時代」を全力疾走

宮城県北部の基幹病院である大崎市民病院(宮城県大崎市)は2021年に手術支援ロボットの導入を決定、2023年1月から本格的にロボット支援手術をスタートさせた。対象は胃がん、前立腺がん、肺がんだが、患者にも医師にも好評なことから、対象部門を拡大。2023年11月には婦人科でもロボット支援手術が始まった

胃がん、前立腺がん、肺がんのロボット支援手術を実施

 宮城県北部(県北)の基幹病院である大崎市民病院(宮城県大崎市)の新しい挑戦が始まった。

 2022年、手術支援ロボット「ダビンチ(Da Vinch Xi)」を導入し、2023年1月から本格的に稼働。毎週、消化器分野(胃がん)、泌尿器分野(前立腺がん)、呼吸器分野(肺がん)のロボット支援手術を実施しており、順調なスタートを切った。

「予想した以上の成果がありました。いろいろな利点がありますが、大きな強みは3D画像で体内を立体的に映し出し、拡大された視野で手術を行うことができることです。患者さんにも医師にも好評なことから、徐々に適応を拡大していく方針で、11月には婦人科でも手術を開始しました。」

 と話すのは大崎市民病院の今泉秀樹院長。長く同病院副院長を務め、2022年7月、院長に就任。病床数500、診療科数は内科、外科、呼吸器内科・外科、消化器内科・外科、循環器内科、心臓血管外科など43、職員・医師約1200人という「医療の城」の「かじとり役」を務める。

 就任後すぐに医師・職員に向けた「院長通信」の発行を開始するなど、コミュニケーションを重視。その第1号では「すべては、あいさつから始まる」と、あいさつの重要性を訴えた。
 手術支援ロボット導入に際しては関連する消化器外科、呼吸器外科、泌尿器科、麻酔科などの医師と臨床工学技士、看護師からなる検討委員会を設置。他社製のロボットなどとの慎重な比較検討の結果、ダビンチの導入が決まった。

「実は9年前にもロボットの導入を検討したことがありました。ただ、当時の保険適用は前立腺がんに限られており、採算がとれません。さまざまな診療科で使えないと導入は厳しかった。近年、ロボット手術に対するニーズが強くなり、保険適用も拡大され、私たちが掲げる『地域完結型医療』を確立するためにはダビンチ導入が不可欠と判断しました」
 と今泉院長は続ける。地域完結型医療の核となる大崎市民病院にとって画期をなす出来事となった。

低侵襲手術の延長としてのロボット支援手術

 看板のひとつは、がん治療。同病院は「地域がん診療連携拠点病院」として県内でトップクラスの治療実績を誇る。患者や地域医療機関の信頼も厚い。今回は、がん治療のロボット支援手術に焦点をあてて取材させていただいた。

 同病院の胃の悪性腫瘍の患者数は360人/年、前立腺の悪性腫瘍の患者数は350人/年、肺の悪性腫瘍の患者数は636人/年(いずれも2021年度のDPC別患者数)。特に消化器系、泌尿器系の悪性腫瘍では東北地方(大学病院も含めて)で上位の手術・治療件数に達する。

 各科ともロボット導入以前から内視鏡を使った低侵襲手術を実践。患者の体への負荷を極力減らすようにしてきた。

「ロボット支援手術は体に小さな穴を開けて行うため、傷口が小さく、腹腔鏡(内視鏡)手術と同様、患者さんにやさしい低侵襲手術です。合併症も少ない。胃がんの場合、従来型の開腹手術では膵臓に傷がつく心配がありましたが、そうしたリスクを減らすこともできました。これまで以上に患者さんにやさしい手術になりました」

 と、がんセンター部長兼第一内視鏡外科科長の安齋実医師は力を込める。安齋医師は腹腔鏡手術の達人。腹腔鏡手術は小さな切開創からポートと呼ばれる筒状の棒を立てる。筒の中に鉗子を入れ、その鉗子の先が開閉するだけなので、操作が難しい。術者には高度な技量が求められた。

「その点、ロボットの場合、可動域が広く、アームの鉗子に関節機能があるため、自在に曲げることができますから、スムーズな作業が可能です」

 胃がんに関しては近い将来、全症例の8~9割をロボット支援手術に移行する予定。「将来的には胃がんの手術はロボット支援手術で行うことが標準になる時代が来ると思います」と安齋医師は話した。

術者の手の震えを自動的に取り除く

 前立腺がんは前立腺肥大症とともに中高年の男性に多い病気。前立腺は男性にだけある臓器で、生殖器の一部を成している。前立腺の細胞が無秩序に自己増殖することで、がんが発生する。

 前立腺は尿道に近い部分の内腺と外側の外腺に分けられ、前立腺肥大症は内腺が大きくなって、尿が出にくくなるもの。対して前立腺がんの7割以上は外腺で発生する。他の部位のがんとは異なり、進行が遅いため、早期発見できれば完治しやすい。

「ただ、前立腺は尿道を包むように存在しており、排尿をコントロールする機能を果たしているほか、前立腺に沿って勃起を促す神経の束が脊椎から陰茎へと走っています。前立腺がんの摘出手術を実施すると、術後に失禁(尿漏れ)、勃起障害などが生じやすいことが大きな問題でした。その点、ロボット支援手術であれば、術後失禁や勃起障害の回復がいいという印象を受けています。それが一番のメリットですね」

 と話すのは泌尿器科副科長の佐藤新医師。佐藤医師は前職の病院でダビンチ手術に関わっており、ダビンチ導入時点で大崎市民病院では唯一のロボット経験者。導入に際しても、さまざまな課題に対して意見を求められた。

 大崎市民病院にとっても経験者がいたことは大きな幸いだった。「当院は県北の基幹病院として、さまざまな役割を果たさねばなりません。ゆくゆくは医師を鍛える『ロボットの教育病院』にしていきたいと考えています」と佐藤医師の目は将来を見据えていた。
 呼吸器センター診療部長兼呼吸器外科科長の島田和佳医師もダビンチの操作性のよさを強調する。

「ズーム機能により、肉眼で見るよりも拡大された視野で患部をとらえることができます。術者が自分でカメラを操作できますから、思ったとおりの手術ができる点も大きな魅力です。従来の手術では視野のつくり方が難しかったのですが、ダビンチは視野のつくり方が簡単で、ストレス軽減にもつながります」

 呼吸器外科でもダビンチ導入以前から胸腔鏡(内視鏡)手術に取り組んでいる。2015年からは肺がんの標準手術である肺葉切除術とリンパ節郭清術は完全胸腔鏡手術で行ってきた。その延長上にロボット支援手術がある。

「ロボット支援手術は胸腔鏡手術よりも、さらに侵襲が小さいのが特徴です。肺がん手術との相性もいい。肺葉切除の際、リンパ節郭清も同時に行っています。縦隔腫瘍切除などにも段階的に取り組んでいきたい。最終的には保険適用の手術は全部ダビンチにしていきたいと考えています」

 ロボット支援手術には正確性、安全性、低侵襲性(患者の負担軽減)など、さまざまなメリットがある。医療現場では開胸・開腹手術全盛時代の内視鏡手術の登場に匹敵する、あるいは、それを上回る「手術革命」が進行していると考える医師も多い。

「開胸・開腹手術→胸腔鏡・腹腔鏡(内視鏡)手術→ロボット支援手術という流れは後戻りできません。私自身、この時代にロボット支援手術の導入に関わり、技術革新による新しい医療を患者の皆さんに提供できることを光栄に感じています」

 との安齋医師の言葉は今回、取材させていただいた医師の方々に共通する思いだ。

「地域全体がひとつの病院になる」を目指して

 最後に今泉院長に大崎市民病院の強みを2点伺った。

「ひとつは東北大学医学部との連携ですね」。東北大学客員教授を務める今泉院長はじめ、お話を伺った安齋医師、佐藤医師、島田医師は、いずれも東北大学出身。ほかにも東北大学から派遣された医師は多く、同大学と積極的に連携・交流することでレベルの高い医療を提供している。

「もうひとつは地域医療ネットワークの核となっていることですね。大崎・栗原医療圏の地域医療支援病院として高度な医療や急性期医療を提供するとともに、かかりつけ医や地域医療機関、調剤薬局、介護事業所、消防、行政などと協力・連携しながら、地域全体がひとつの病院になるように努めています」

 今泉院長の趣味はマラソン。抗加齢医学の実践の意味も兼ねており、毎日のランニングを欠かさない。「地域全体がひとつの病院になる」との理想を実現するために、今日も今泉院長の全力疾走は続く。

大崎市民病院 院長

今泉 秀樹

いまいずみ・ひでき。東北大学医学部卒。医学博士。日本整形外科学会認定整形外科専門医。日本整形外科学会代議員。東北大学客員教授。東北大学医学部臨床教授。

がんセンター部長兼
第一内視鏡外科科長

安齋 実

呼吸器センター診療部長兼
呼吸器外科科長

島田 和佳

泌尿器科副科長

佐藤 新

医療新聞社
編集部記者の目

「ロボット支援手術の時代が来る。いや、もう来ている」と実感できた取材だった。ロボット支援手術は切開創が小さく、合併症も少ない。3D画像で体内を立体的に映し出し、可動域の広いアームで精緻な手術が可能とあって患者にとっても術者にとってもメリットは大きい。ある医師は開胸・開腹手術全盛時代の内視鏡の登場に匹敵する、あるいは、それを上回る「ロボット手術革命」が進行している、と。その流れは、さらに加速しそうだ。

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