水野クリニック

大阪府

人生のフィナーレに猶予なしを旨に、
終末期をサポート

病気を介してではなく、心と心で患者と意思疎通

　大阪府の南東端に位置する河内長野市。古くから高野山に続く街道の宿場町として栄えたこの地に「水野クリニック」はある。同院で診療するのは内科、循環器内科、胃腸内科、小児科。これら診療科に加え、常勤の医師３名と専属スタッフが一丸となって訪問診療に取り組んでいる。

　「診察時、来院された方が何を希望し、訴えたいのかを傾聴します。確かに、検査結果の数値は大事です。しかし、それよりも症状に悩む方の声をもっと大切にしたいのです」と話すのは院長の水野宅郎医師だ。

　「医療従事者として、医学の知識と資格を備えておくことは不可欠。同様に、私たちは診断や治療をサービス業として捉え、悩みを抱える方の心に寄り添い、希望や要望に応える姿も必要なのです。誰もが十分に納得できる医療に加え、選りすぐりのお手伝いとおもてなしを提供したいと考えています」

　その姿勢は、同院の訪問診療にも十分に活かされている。常勤医の1人、林蘭仁医師は在宅医療を受ける高齢者と心を交わす、その大切さを強調する。

　「大学病院に勤めていた頃、私は病床に臥せる方々と病気を介して繋がっていたような気がします。しかし個人宅にお伺いして診療する今は、以前と違い、心や気持ちで意思疎通しているように思えます。特に、ターミナルケアは治療法がもはやないのが実情です。終焉を迎えようとしている時、その方が本当に求めているものは何か。心を通わせることで、治療の正解ではなく、この世に悔いを残らせないための正解を模索しています」

病気を介してではなく、心と心で患者と意思疎通

　終末期医療は余命いくばくもない、その期間に何をするかが大事と力説するのは常勤医の三軒龍昌医師だ。三軒医師は高野山真言宗遺跡本山檜尾山観心寺で弟子となり、高野山で修行した僧侶でもある。

　「死期が近づく方々への向き合い方として『これから、もうちょっと元気になったら、好きなことをやりましょう』とは決してなりません。余命わずかな方はこの先、一時的にでも体調が良くなるかどうか不明です。ご家族には、今現在がベストであるという認識をお持ち頂き、今すぐにできることは何なのかを一緒に考えます」

　人生のフィナーレは猶予を許さないーー在宅医療で得た知見、経験則がこのクリニックには貫かれている。

　「余命が限られた方とご家族、両者の希望を尊重し、できる限りサポートするのが私たちの使命です。寝たきりだった方がある日、意識が混濁としてしまっては、希望を叶えることもままなりません。残念ながら、遅きに失したと言わざるをえないのです」と三軒医師は厳しい現実に言及する。

　医師と二人三脚で訪問診療を担う、看護師の山口史恵さんは訪問先では健康状態のチェックのほか、住居内の安全性にも注意を怠らない。

　「階段の手すりや玄関マットなどの敷物の状態を見て、転倒の危険性の有無を確認しています。何より、ご自宅内での安全性の確保が大切です。また、生活の質の改善に取り組んでもらいます。リハビリが必要な方には運動プログラムを提案、食事に関するアドバイスをします。他の訪問看護ステーションやケアマネージャーさんと連携して情報を共有し、容態の急変にも迅速に対応しています」

　医師や看護師の働きを裏方で支える事務スタッフも、訪問診療になくてはならない存在だ。
　「訪問前にはカルテを整理して、診療に必要な持ち物や訪問日程を確認します。訪問後はお薬の処方箋やカルテの記載をチェック、不備、漏れがないかを調べます。医師や看護師が円滑に訪問診療できるよう、サポートしています」（事務スタッフの藪本典子さん）

　こうして、スタッフ総動員で訪問診療に当たる同院。水野院長は訪問診療を通して、医療の在り方を改めて見つめ直す。

　「医療は科学と技術の分野であるのと同時に、人間性と思いやりが不可欠な職業でもあります。特に訪問診療は医療を受ける側の信頼と協力なしでは成り立ちません。私は今後もさらに多くの方と信頼関係を築けるよう、現状に満足せず、常に向上心を持って、地域密着型の医療サービスを充実させます。地域の人々が気軽に立ち寄れて、医療以外のことも何でも相談できるコンビニのようなクリニックを目指しています」

院長

水野宅郎

みずの・たくろう●金沢医科大学医学部卒業。医学博士。金沢医科大学氷見市民病院循環器内科助教、金沢医科大学大学院博士課程修了を経て、現職。日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医。

医師　

林蘭仁

はやし・らんじ●金沢医科大学医学部卒業。金沢医科大学消化器内科学学内講師を経て、現職。

医師　

三軒龍昌

さんげん・りゅうしょう●金沢医科大学医学部卒業。金沢医科大学氷見市民病院総合診療科を経て、現職。

看護師

山口史恵

他の訪問看護ステーションやケアマネージャーとも連携して情報を共有し、患者さんの急変にも迅速に対応しています

事務

藪本典子

訪問前にカルテの整理や持ち物や訪問日程の確認などをして、円滑に訪問診療できるようサポートしています

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