- 東京都
がん・感染症センター
都立駒込病院 肝臓内科
- 動画あり
実臨床から創薬の治験まで
肝臓病のプロ集団が提供する肝臓医療
肝臓病特化体制でさまざまな 肝臓病のニーズに応える
東京都・文京区北部に位置する東京都立駒込病院は、都内のがん・感染症診療で中心的な役割を担い、第一種感染症指定医療機関、がん診療連携拠点病院として広く知られている。肝臓領域の診療では消化器内科とは独立して肝臓内科を標榜。木村公則医師を中心とする5名(3名が肝臓専門医)の肝臓のエキスパートたちが、肝臓病の医療ニーズに応えている。
現在、飲み薬で完治が目指せるようになったC型肝炎の治療は、主流のインターフェロンフリー療法を中心に数多くの治療実績を重ねている。急性肝炎はA型やB型肝炎ウイルスが原因のことが多く、通常は安静や点滴治療などにより回復するが、一部の症例では重篤化することがある。この重篤な病態である劇症肝炎(急性肝不全)では腎臓内科と連携し、血漿成分に含まれる病因物質を除去する血漿交換などを行う。進行した肝硬変では、静脈が太く浮き上がる食道静脈瘤や、直腸粘膜の静脈が拡張する直腸静脈瘤を合併することがあるという。「これら静脈瘤の破裂は大量出血につながり、出血性ショックや肝不全を起こす引き金にもなります。静脈瘤からの出血を回避するため、出血しそうな静脈瘤に対しては内視鏡的治療(内視鏡的硬化療法・内視鏡的結紮術)を行っています」と木村医師は説明する。
肝硬変の創薬に向けた治験にも精力的に取り組む
一方、肝硬変や肝がんにおける臨床試験(治験)を精力的に行っており、その取り組みは世界的にも注目を集めている。「C型肝炎ウイルスに感染することで肝細胞がダメージを受け、肝硬変や肝がんに移行するリスクが高まります。近年、治療薬の進歩でC型肝炎ウイルスを体内から排除することが可能になりましたが、進行した肝硬変に対する治療薬は現在のところありません。この肝硬変をどうするかは非常に重要な問題です。当科では医療連携を通じて全国から肝硬変の患者さんを積極的に受け入れ、創薬に向けた治験を鋭意進めています」
肝硬変とは、肝細胞が肝炎などにより障害を受けた際に、コラーゲンなどの細胞外マトリックスが異常蓄積することにより生じ、肝臓が硬くなる「線維化」という状態である。この線維化を改善する治療薬ができれば画期的な快挙になるという。
肝がんの内科的治療はラジオ波焼灼療法が主力
肝がんの治療は同科と、肝胆膵外科、放射線診断部の3科による症例検討会(キャンサーボード)で、肝機能と腫瘍の状態に応じて治療方針を決定する。内科的治療の適応となった場合、主にラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓術、化学療法などが行われる。
同科は2009年からラジオ波焼灼療法に積極的に取り組んでおり、年間84例(20年1月~12月)もの実績を重ねている。熟達した手技で治療にあたる今村潤医師はその特徴について次のように話す。
「ラジオ波焼灼療法は約1.5㍉の電極針を肝臓に刺し、針先端の周りに熱を発生させ、がんを凝固壊死させる治療法です。根治性が期待でき開腹手術に比べ体への負担が少ないという利点があります。肝癌診療ガイドラインでは、腫瘍の大きさが3㌢以下、数が3個以内であれば手術(肝切除)とともに推奨されています。肝機能が悪かったり、呼吸器疾患などの合併症を伴っていたりしても適応可能で、当科では高齢の方でも全身状態が良ければ治療の対象としています。CT・MRI画像と超音波画像をリアルタイムに同期して表示可能な装置を導入し、超音波で描出することが難しい病変においても精度の高い治療を追求しています」
- 肝がんに対するラジオ波焼灼療法の実施風景 鎮静剤を投与し、局所麻酔下に施行している
近年、肝がんの薬物療法も大きな進歩を遂げていると今村医師。「従来、進行した肝がんはなかなか良い治療薬がありませんでしたが、レンバチニブやアテゾリズマブ・ベマシズマブ併用療法など、有望な抗がん剤が登場したことで、肝がんとかなり闘えるようになってきました。それに伴い全国からの紹介患者さんも増加しています」
木村医師はこれからの抱負について次のように語る。「当院は東京都のがん診療連携拠点病院であり、今後もウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪肝炎由来の肝がんを始め肝内胆管がんなどの難治性がんの治療を積極的に行います。さらに患者さんに福音となるような肝がんに対する新たな治療薬の開発にも取り組んでいきます」
取材/冨永雅裕
肝臓内科 部長
木村 公則
きむら・きみのり●1993年、岐阜大学医学部卒業。日本消化器病学会認定消化器病専門医、日本肝臓学会認定肝臓専門医
肝臓内科 医長
今村 潤
いまむら・じゅん●1997年、東京大学医学部卒業。日本消化器病学会認定消化器病専門医、日本肝臓学会認定肝臓専門医、日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医
医療新聞社
編集部記者の目
木村公則医師の「肝硬変治療薬の開発」は、世界最大の肝臓関係の学会である米国肝臓学会(AASLD)から、今後期待される注目すべき臨床研究として採択され、同学会からも取材を受けるなど、世界的に注目度が高い。そんな画期的な研究に取り組む木村医師だが、実臨床では「近年、糖尿病や高脂血症が要因の脂肪肝、および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が増加しており、肝臓病の診断と治療の重要性が、ますますフォーカスされています」と話す。また、同院の疾患統計では、C型肝炎由来の肝がんとNASH由来の肝がんの数は、ほぼ同数とも指摘する。
Information
【診療時間】月~金 午前 火 午後
【休診日】土・日・祝
〒113-8677 東京都文京区本駒込三丁目18番22号
TEL.03-3823-2101(代)