救急医療を通じて地域を支える

　鹿児島県の米盛病院は、整形外科の単科診療所（19床）として、１９６９年に開院した。以来、50年以上にわたり地域医療に多面的に貢献し、２０１４年の新築移転を機に、救急医療にも注力。現在は、18診療科・５０６床を備え、運動器から脳・心臓まで、幅広い外傷・疾患に対応する。

　「“一秒を救う。一生につなぐ。”をコンセプトに、患者さんお一人おひとりに寄り添い、救急医療からリハビリテーションまで一貫・充実した医療提供を目指しています」と米盛公治院長は語る。

　救急医療を充実させるため、迅速な治療提供を目指し、検査と治療を一つの部屋で完結できるハイブリッドＥＲ（救急室）を設置。全国的にも珍しい民間医療用ヘリコプターを導入し、災害医療や離島・遠隔地の重症患者受け入れにも積極的に取り組む。また、同院独自の救急相談ダイヤル（＃７０９９）を開設し、救急救命士が24時間３６５日体制で地域住民からの受診相談に対応、救急車の適正利用の促進にも貢献している。

超急性期脳梗塞の診療体制を強化

　力を入れる救急医療の一つに、脳卒中治療がある。特に、脳梗塞の治療では、薬剤で血栓（血管を詰まらせている血の塊）を溶解させる「ｔＰＡ静注療法」と、血管に挿入したカテーテルを通じて血栓を取り除く「血栓回収療法」の実施体制が整う。

　加えて、民間医療用ヘリやドクターカーなどで医師が現場に赴く病院前救護（プレホスピタルケア）にも注力。脳血管内治療センター長の井上泰豪医師は「現地で可能な処置を行いつつ、情報を病院に適宜連絡することで、到着と同時に検査・治療を開始できます」と話す。

ハートチームで治療の充実を志向

　心疾患の救急医療では、循環器内科や心臓血管外科の医師をはじめ、コ・メディカル、事務員も含めた多職種が連携したハートチームが活躍。より良い医療の提供を目指して、患者の病態はもちろん生活環境にも着目し、チーム全体としてさまざまな角度からアプローチを行っている。

　「救急医療のみならず、心疾患全般にも幅広く対応しています。例えば、心臓を動かす電気信号のリズムが乱れる不整脈は、脳梗塞などの重篤な疾患につながる危険があり、早期発見・治療が大切です。当院では、薬物療法や手術のほか、カテーテルを用いて患部を焼灼するアブレーション治療や、ペースメーカなどを植え込むデバイス治療にも対応しています」と不整脈センター長の田上和幸医師。希望があれば、女性スタッフによる検査・治療にも対応できるという。

• 県のドクターヘリを補完する役割も担う

高精度の膝・股関節手術と充実した術後リハ

　整形外科では関節や脊椎、外傷など分野ごとにチームを設置し、質の高い医療の提供に取り組んでいる。救急科と連携する外傷治療はもちろん、変性疾患治療にも注力。特に人工膝・股関節置換術では、かねてから術中ナビゲーションシステムや３Ｄ術前計画ソフトを導入し、より正確なインプラント（人工関節）の設置を追求してきた。

　20年１月からは、九州・沖縄地区で初めて、ロボティックアーム手術支援システム（Ｍａｋｏ）の臨床使用を開始。ＣＴ画像を参考に医師が詳細な術前計画を行い、その実施をロボティックアームが補助するもので、同院では既に２２０件を超える手術実績を重ねている※１。

• Ｍａｋｏを用いた人工関節置換術。 スタッフ一丸となり、手術時間短縮を実現

　「ロボティックアームが医師の手術操作をより安全かつ正確にサポートすることで、患者さんの身体的負担の少ない手術が期待できます。海外の病院からは、インプラントの設置精度の向上や術後の疼痛の低減に関する報告も発信されています」と人工膝関節センター長の水島正樹医師は説明する。

　こうした脳・心臓の救急医療や整形外科の治療では、術後のリハビリも重要だ。２００床の回復期病床を有する同院には、約２００名のリハビリスタッフが在籍※２。「ＡＤＬ（日常生活動作）の回復を重視し、極端な入院期間の短縮は行っていません。手術もリハビリも、充実した環境を整えていますので、気になる症状のある方は、まずはお気軽にご相談ください」

※1　2020年1月～12月 ※2　2021年1月現在

構成／杉本富士孝