• 埼玉県

川口市立医療センター

循環器内科と心臓血管外科の
成熟したハートチームが威力を発揮

患者さんの負担を減らすためさまざまな術式を検討

 2017年に開設された川口市立医療センターの心臓外科に、20年から21年にかけて2つの大きな変化が起こった。ひとつは20年5月に北中陽介医師を部長に迎えたこと。心臓外科手術の豊富な経験を持つ北中医師が着任したことで、虚血性心疾患や弁膜症などの心臓疾患の手術件数が大幅に増加した。

 もうひとつは21年4月、心臓外科から心臓血管外科へ診療科名を変更したことだ。対象領域を広げ、心臓、大動脈疾患だけでなく、閉塞性動脈硬化症や下肢静脈瘤などの末梢血管疾患治療にも取り組んでいる。

 同センターが1994年5月に開院して以来、27年が経過。いまや三次救急、周産期医療、基幹災害拠点、がん診療連携の4つの軸を持つ川口市でも屈指の基幹総合病院へと飛躍した。その中核を担う2人の医師にインタビューした。

 虚血性心疾患の治療では人工心肺を使わない心拍動下冠動脈バイパス術(オフポンプCABG)を第一の選択肢として検討します。患者さんへの負担を、できるだけ減らすためです。もちろん症例に応じて人工心肺を使う術式も採用しています。

 弁膜症では患者さん自身の弁を長く温存できる弁形成術に力を入れています。症例によってはMICS(低侵襲心臓手術)も選択します。従来の外科手術では25㌢前後の切開創があったのに対し、MICSなら肋骨に沿って6~10㌢ほどを切開し、他にカメラポート、遮断鉗子用の2カ所の孔を開けるだけで弁膜症の手術を実施できます。

 大事なことは患者さんができるだけ早く元の生活に戻れること。その患者さんにとってベストな治療が必ずあります。そのために、さまざまな術式を検討し、最適と思われる選択をしています。

他の診療科との連携で治療の幅を広げていく

 他の診療科との連携にも力を入れています。たとえばNICU(新生児集中治療科)や麻酔科と一緒に未熟児の動脈管開存症の手術を始めました。小さな体を通る細い血管にアプローチするため、繊細さが求められる手術です。このような治療ができるのも、29の診療科を備える総合病院ならではといえます。他にも、糖尿病内分泌内科、腎臓内科、小児科などとも垣根を超えた治療を行っています。

 最も緊密なタッグを組んでいるのが循環器内科です。毎朝30~40分程度、循環器内科、心臓血管外科の医師全員と、看護師、リハビリテーション科、臨床栄養科などのコメディカルも参加するカンファレンスを実施し、治療方針などを決めています。週1回の手術症例検討会も循環器内科、心臓血管外科の医師全員で行っています。

 循環器内科は救命救急センターのCCU部門(集中治療室)を運営し、24時間体制で急性心筋梗塞や急性心不全、不整脈などの重症患者を受け入れ、治療にあたっています。院外心停止の患者に対しては経皮的心肺補助装置(PCPS)で体外循環を行い、その後、脳低体温療法によって体温を35度台の低温にすることで、脳へのダメージ軽減を図ります。 

 心臓血管外科が軌道に乗ったことで、心不全の原因となる心臓弁膜症や重篤な狭心症・心筋梗塞などの心臓血管疾患の外科的治療も可能となりました。心房細動や、その他の不整脈に対するカテーテルアブレーション(RFCA)の件数も増加しています。RFCAによって不整脈を改善し、血液をさらさらにする抗凝固薬などの服薬を減らすことや、心不全や脳梗塞のリスク低下、QOL(生活の質)向上を目指しています。

 20年末からは徐脈性不整脈に対する、ICD(植え込み型除細動器)やCRTD(両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器)の植え込み手術も行えるようになりました。以前は他の病院に送る必要があった患者さんの治療を、院内で完結させられるようになったのです。

  • さまざまな心臓疾患への処置が行われる血管撮影室

埼玉県南部の市民の健康を守る医療ネットワークの拡大へ

 循環器内科と心臓血管外科がお互いを補完し合うことで、ハートチームとして成熟し、大きな相乗効果を発揮するようになってきました。これにより地域住民への、より安全で質の高い医療の提供を目指します。

 以前から川口市民の命は市内の病院で守りたいという思いがありました。そこで他の病院の協力も得て医療機関の連携に力を入れ、川口市のCCUネットワークの実現に尽力しました。さらに行政からの要請もあって、川口市、蕨市、戸田市の医療機関からなる埼玉県南部医療圏CCUネットワークへと発展。これからも地域の期待に応え、医療機関連携に力を入れていきたいと考えます。

心臓血管外科部長

北中 陽介

日本外科学会認定
外科専門医
日本心臓血管外科学会認定
心臓血管外科専門医

副院長
循環器内科部長
集中治療科部長

立花 栄三

日本内科学会認定
総合内科専門医
日本循環器学会認定
循環器専門医

医療新聞社
編集部記者の目

心臓外科手術のメッカともいわれる新東京病院で研鑽を積んだ北中医師が着任し、川口市立医療センターのハートチームはさらなる飛躍を遂げた。また循環器内科の立花副院長は、患者優先を貫くため、市内の他の医療機関と連携して川口市のCCUネットワークを構築した立役者でもある。そのCCUネットワークは今、埼玉県南部医療圏へと広がっている。地域医療に貢献する医師たちの誇りを感じた。

Information

川口市立医療センター

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TEL.048-287-2525(代表)

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【休診日】日、祝、第2・4土、年末年始(12月29日~1月3日)

※受診の際は、紹介状が必要です。